メキシコ版お盆の「死者の日」とは〜岡山県津山市「ホルモン焼きうどん」との類似性〜

メキシコ

メキシコ版お盆の「死者の日(Día de Muertos)」は、ユネスコ無形文化遺産にも登録(2003年)されており、ディズニーの『(邦題)リメンバー・ミー』(原題:Coco)でも舞台となるなど、世界的に有名なお祭りとなっています。

本記事では、この世界的祭りの起源等に迫り、メキシコで有名なこの「死者の日」と、岡山県津山市で有名な「ホルモン焼きうどん」との類似性についてみていきたいと思います。

メキシコにおける「死者の日」

起源は? 〜「先住民起源である」という説〜

メキシコの「死者の日」の起源として最もよくされる説明は、それが先コロンビア期からの流れを引くもの、すなわちそれが先住民文化由来であるというものです。

今から3000年以上前、メシカ(アステカ帝国を構成する中心的部族)や、マヤ、トトナカ、タラスコなどのメキシコ先住の民族に広くに習慣としてあった文化が、現在の「死者の日」の祭りにつながっている、とのことです。

具体的によく引用されるエピソードは、メシカなどのナワ族の死生観である「ミクトラン(Mictlán)」です。人間は死後はこの「ミクトラン」(冥界みたいなところ)に行くと考えられており、ここにいくには死後の魂は4年間極めて苦難な旅をしなければならないとなりません。

しかしながら、男性の死神である「ミクトラン・テクートリ(Mictlantecuhtli)」と女性の死神である「ミクトラン・テシウアトル(Mictlantecihuatl)」が治めるこの「ミクトラン」に辿り着けば、そこでは安寧が得られる、と考えられていたそうです。

従って、「ミクトラン」にいくというのは、日本人的な考え方だと「成仏する」とか、「極楽浄土に行く」みたいな感覚であるようです。征服後のスペイン人宣教師たちはこの「ミクトラン」を最初「地獄」のようなところだと認識し、キリスト教布教の際「ミクトランに行きたくなければキリスト教を信じなさーい」という風にこれを使おうとしてうまくいかなかった、という逸話もあります。

こうした先住民文化があって、その後、キリスト教的要素が混ざって、現在の形にまでつながっている、というのが、最もよくみられる説明です。

いつ祝う?〜11月1日と2日がメイン〜

現在メキシコにおける「死者の日」は、11月1日(Día de Todos los Santos(諸聖人の日)、2日(Día de los Fieles Difuntos(死者の日))に行われます。これらの日はもっぱらキリスト教の祭日です。

また、酷い死に方をしてしまった人を弔うため(10月28日から)や、早くして亡くなってしまった子ども(特に洗礼を受ける前になくなってしまった子)の弔いのため(10月30日または31日から)、10月末から供養を行う場合もあります。

なお、前述の先住民起源説に基づき、先住民文化では、もともとはメキシコ太陽暦における「第9の月」(8月に始まり30日間続く。)に開催されていたものが、その後キリスト教文化に飲みこまれ、少しずつ現在の時期にずれていった、という説明が、これまたよくみられます。(この時期がずれていった説明には、先住民が、抑圧された自分達の習慣を存続させるために、キリスト教の祝日に合わせて、キリスト教のお祝いをしているよう装った、ということも言われます。)

どんな祭り?〜お盆的なコンセプト〜

「死者の日」は、亡くなった家族が、その日に家族のもとに帰ってくるという日本のお盆と同じようなコンセプトの祭です。

それぞれの家族が死者を迎えるため祭壇(キリスト教風)をこしらえ、死者が好きだった食べ物や飲み物をお供えします。鮮やかなオレンジ色と強い香りで死者が帰ってきやすいものとの考えや、聖母マリアの黄金の花だから、という縁起の良さで、祭壇はマリーゴールド(Cempasúchil)でいっぱいに装飾されます。

町中が音楽や踊りでお祭りムードとなる他、ガイコツの仮装やペイントをした人で溢れかえります。骸骨の砂糖菓子や人形のパンも「死者の日」の一般的な食べ物です。

その他、コンサートや、祭壇の芸術性を競うコンテストなども開催されます。さきほどの「ミクトラン」信仰に基づき、目的の地に行けるとされる死後4年後は少し特別に祭壇を豪華に装飾する、という家族もいるようです。

また、カラベリータス(calaveritas)という、政治家や有名人などを韻を踏んでディスったり、あるいは亡くなった家族を表した詩を読んだり、という文化もあります。

祭の日が終わったら、死者を思い出しながら、お供えものはみんなで飲んだり食べたりして消費するようです。

ガイコツ

メキシコの「死者の日」を代表するものといえばガイコツの仮装ですが、これの火付け役となったのは「ラ・カトリーナ(La Catrina)」と呼ばれる「貴婦人風骸骨」の風刺絵でした。

もともとの絵は、イラストレーターのホセ・グアダルペ・ポサダ(José Guadalupe Posada)氏の書いた「ラ・カラベラ・ガルバンセラ(la calavera garbancera)」(筆者和訳:女中さんの骸骨)という、フランス貴族風の帽子を被ったガイコツ(女性)の絵(1910年公開)でした。

これは、自らの先住民的文化を卑下し、ヨーロッパ風を装おうとする先住民系のメキシコ人たちを揶揄した絵でしたが、これをメキシコ壁画の超有名人のディエゴ・リベラ(Diego Rivera)が自身の壁画に取り入れ、「ラ・カトリーナ(La Catrina)」(気取った女性といったニュアンスを持つ)と名づけたことで、また当時の「先住民文化の尊厳を取り戻そう!」というムーブメントとうまくマッチする形で、広く浸透していきました。

「死者の日」で仮装・メイクされる、貴族風の格好と骸骨の組み合わせは、この「ラ・カトリーナ」を表現しているものと言えます。

ハロウィーンとの関係は?

仮装といえば10月末のハロウィーンですが、「死者の日」となんとなく雰囲気が被るこちらの祭りは、結論的には別物であるようです。ハロウィーンはアイルランド系の非キリスト教の風習が発祥のようです。

両者は、お互いコンセプトや開催日が被るので、またお互い異教の祭りであるので、お互いやだなと非難してたようです。しかしながら、最近は映画などの影響でよりフランクにお互いを意識し合うようになり、基本的には別物だけど、刺激はし合う関係になっているようです。

岡山県津山市「ホルモン焼きうどん」

次に岡山県津山市の「ホルモン焼きうどん」ですが、これはテレ朝「かりそめ天国」で、ホルモン焼きうどんの発祥地の一つとして紹介がされました。

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番組によれば、「ホルモン焼きうどん」をそれぞれのソウルフードとする岡山県津山市と兵庫県佐用町が、それぞれ自分こそがホルモン焼きうどんの発祥の地、元祖である、という認識をもっているということです。

津山市が佐用町からホルモン焼きうどんを含めた町おこしのやり方を学んだという側面がありつつ、津山市としては、700年代に牛肉を食べる文化があり、これをもってホルモン焼きうどんのルーツは同市であるという立場のようです。

番組のトーンとしては、津山市の古来の食肉文化を持ち出す論法には無理があるだろうという雰囲気でありつつ、現在はB級グルメのグランプリなどで津山市がホルモン焼きうどんを非常によく売り出すことに成功しており、ルーツがどちらの町なのかは最終的にはわからない、というような形で締めていました。

メキシコ「死者の日」と津山市「ホルモン焼きうどん」の類似性

「死者の日」がインディヘナ由来というのは嘘?

メキシコの「死者の日」のルーツをめぐっては、前述の先住民由来説に対する異説が実は存在します。この異説は、メキシコ国立考古学・歴史研究所に40年勤めた、メキシコ史、メキシコの「死」の専門家のエル・マルビード博士(Elsa Malvido(1941-2011))が提唱しているもので、博士によれば、メキシコの「死者の日」は完全にキリスト教由来のものでしかなく、先住民起源説は20世紀にとって作られたものだ、ということです。

博士によれば、「死者の日」にみられる習慣、すなわち死者への祭壇、死者を想ってのお供えや家族での食事、骸骨の形をしたお菓子やパンなどは、全てヨーロッパキリスト教文化に起因しており、実際ヨーロッパ諸州でこうした伝統はみられます。

また、先住民文化で死者を悼んだ風習などがあったとしても、それは古今東西どこでもみられるものであり、当然欧州以外のアジアでも中東でもみられるもので、それを起源と認識することは不可です。さらにいえば、先住民の生贄文化では、死に対する尊敬の念や信仰心といったものはなく、「死者の日」にみられるような弔いの文化はなかったということです。

博士の指摘する「死者の日」、すなわちキリスト教の「諸聖人の日(11月1日)」および「死者の日(11月2日)」の起源は、具体的には、10世紀のフランス、クリュニー修道院であるとのことです。

もしもこれが真実であるならば、フランス風かぶれを揶揄したガイコツが象徴となっているお祭りが、よりにもよってフランス由来であったということになってしまい、これはこれでかなり皮肉が効いています。

「捏造」の経緯〜ナショナリズムの高揚〜

ではなぜ先住民由来説が出てきて、現在一般的なのか、これは、博士によれば、20世紀に、先住民文化を持ち上げようとする知識人層がそうした説を持ち出し、これに人類学者たちも乗っかったことが原因であるといいます。

第二次世界大戦前は、まさに世界的に国民国家の盛り上がり、すなわちナショナリズムの高揚期であり、メキシコ政治・国民もそうした愛国的なアイデンティティーを求めていたタイミングで、この先住民ルーツ説もうまくマッチして国民に広く浸透したようです。

根拠は曖昧でも盛り上がることができる

こうして考えると、メキシコ「死者の日」は、そのルーツは実はメキシコ固有の文化ではない可能性もありながら、あるいはそうした説が1900年代に「捏造」された可能性もあるわけですが、古来の先住民由来というフワっとした認識で、国内的にも国際的にもメキシコのシンボルとも言えるお祭りの地位を確立しています。

これは、岡山県津山市が、もし古来の「食肉」文化というフワっとした根拠からホルモン焼きうどんの発祥を謳い、現在市のソウルフードまで発展させたとすれば、それと近しいところを感じます。

たとえ根拠は多少曖昧でも、うまくマーケティング、プロモーションをすれば、現地で古来から愛された文化として、蘇らせることができるだろうことを、この二つの例は示しているようにも思えます。津山市の「ホルモン焼きうどん」も、現在は重要な食文化であり観光資源ですし、メキシコの「死者の日」は国民の祝日であり、ユネスコ世界遺産です。

メキシコ以外の「死者の日」

ちなみに、メキシコ以外のラテン・アメリカでも「死者の日」は祝われます。

例えば南米エクアドルは、11月2日のキリスト教的死者の日に合わせ、そのまま「Dia de los Difuntos(死者の日)」を祝います。ラ・カトリーナの骸骨こそメキシコ特有ですが。コンセプトはほとんど同じで、Colada Morada(コラダ・モラーダ)という黒とうもろこしベースの紫色のジュースと、Guagua de Pan(グアグア・デ・パン。グアグアはケチュア語で「子ども・赤ちゃん」を指す。)という人形の甘いパンを食べるのが慣習です。この祭はこの祭で、エクアドル大統領府HP情報によれば先住民由来(インカ系)であるそうですが、血をイメージした飲み物と、人形のパンやお菓子というのは、エルサ・マルビード博士が指摘したキリスト教由来の伝統とかなり親和性が高いように思われます。

また、グアテマラでは、諸聖人の日(Dia de Todos Los Santos)に合わせ墓参りや家族での集まりが習慣となっていますが、ユニークな点としては、barriletes (カラフルで大きな凧)を揚げるという伝統があります。このカラフルな凧は生きている人と死者の魂を結ぶものと考えられているそうです。

まとめ

本記事では、メキシコの「死者の日」のルーツと概要を見ていくとなんとなく見えてきた岡山県津山市の「ホルモン焼きうどん」との類似性を紹介しました。

ちなみに、この種の話は他にも多くありそうで、例えば商業目的で一大イベント化したバレンタインや、恵方巻き系のものもそうかもしれません。

もちろんそれぞれの由来は本物・本当かもしれませんし、そうでなかったとしても、そこに傷つく人がおらず、多くが楽しめるものであれば、それはそれで良いものとして多くの人が受け入れるのかもしれません。

ホルモン焼きうどんの件に関しては兵庫県佐用町という若干の利害関係者?が別途いますが、メキシコ「死者の日」に関して言えば、キリスト教側がルーツを主張する必要もなければ(先住民文化に与えた損害を考慮すれ)その権利もおそらくなく、誰も損せず、先住民文化の尊厳確保という良い面のみが認識され、ここまで広がったものと思います。

本当の由来はさておき、「死者の日」であれ「ホルモン焼きうどん」であれ、ここまで定着したものにはそれなりの魅力があろうと思いますので、今後の発展にも期待したいと思います。

参考文献

・CONACULT, Así nació el Día de Muertos

・Los Angeles Times, Día de Muertos, tradición mexicana que celebra la muerte con varios elementos, OCT. 30, 2021

・テレ朝「かりそめ天国」(Tver)

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