ニカラグアの台湾との国交断絶【その意味とは?】

ニカラグア

2021年12月9日に、ニカラグア政府が台湾との国交断絶を発表し、翌10日に中国との国交樹立を発表したことを受け、日本でも「ニカラグアの台湾との国交断」というニュースがトップニュースで出てくるようになりました。

例えば、以下が関連記事です。

中米ニカラグア、台湾と断交し中国と国交 台湾「つらく、遺憾だ」:朝日新聞デジタル
 中米ニカラグアは9日、国交を結んでいた台湾と断交すると発表した。中国の国営新華社通信は10日、中国がニカラグアと国交を結んだと伝えた。ニカラグアは反米左派のオルテガ政権で、11月の大統領選をめぐって…
ニカラグアが台湾と国交断絶を宣言した意図
中米ニカラグアは2021年12月9日に1990年から続いた台湾との外交関係を解消し、中国と国交を回復させたことを発表した。ニカラグア政府は声明で「中華人民共和国こそ全中国を代表する唯一の合法的な政府であり、台…

これらニュースを見て、「台湾と国交断絶だなんて、なんでだろう!」や、「ニカラグアって激しいことする国だなぁ」などと感じられた方も、少なからずいるのではないかと思います。

しかしながら、一言でいえば、「台湾と国交断絶をしている方が普通」なので、それを踏まえてニュースを読む必要があります。以下ではその意味と、基本的な情報を扱っていきます。

台湾との「国交断絶」の意味

先ほども「台湾と国交断絶をしている方が普通」と申し上げましたが、この基本的な意味を解説させていただきます。

端的に言えば、習近平(しゅうきんぺい)国家主席をトップとする「中華人民共和国」を国として認め、それがいわゆる「中国」だと認識する国(従って「中華人民共和国」と国交を結んでいる国)は、台湾と国交(=国と国との関係外交関係)を持っていません

国交を持っていないということは、国交を断絶している状態と同じです。国として認めていないのです。

現在、日本人が「中国」と言って思い浮かべるのは、首都が北京で元首が習近平の「中国」です。これは日本もその中国(中華人民共和国)と国交を持っていて、台湾とは国交を持っていないためです。もちろん日本の教育やメディアのあらゆるところで「中国」といえばその中国を指すため、この考え方が一般的になります。アメリカ、フランスを含め、ほとんどの国がそうです。

台湾を国家承認している国

2021年12月22日現在、台湾を国家承認している、すなわち台湾と国交・外交関係を有している国は、台湾外交部の公式HPによれば、現在以下の14カ国です。

・東アジアおよび大洋州: マーシャル諸島、ナウル、パラオ、ツバル

・アフリカ: エスワティニ

・ヨーロッパ: バチカン

・ラテンアメリカおよびカリブ: ベリーズ、グアテマラ、ハイチ、ホンジュラス、パラグアイ、セントクリストファー・ネービス、セント・ルシア、セントビンセントおよびグレナディーン諸島

これらの国にとっては、「中国」は蔡英文(さいえいぶん)総統をトップとする中国(中華民国)であるのです。 

日本を含めたこれ以外の国は、台湾ではなく、中国(中華人民共和国)と国交を持っていると考えて良いでしょう。

国交(外交関係)と友好関係

国交、または外交関係と言っても良いですが、そうした国と国との関係を有しない一方、日本やアメリカ、その他多くの国と台湾は友好的な関係を維持しているように見えます

もともと日本もアメリカも、現在台湾と呼ぶ中華民国と国交を結んでいて、それを断交して、中華人民共和国と国交を結んだのです。米国は1972年のニクソン大統領が訪中し、1979年にカーター政権下で中華人民共和国を国家承認します。

日本も、1972年に中華民国(台湾)と断交し、中華人民共和国と国交を樹立します。

近年の米中対立や新型コロナに対する中国と台湾の対応などからも、中国よりも台湾の方がさまざまな面で価値観を共有しているように見え、米議員からも「台湾と再び国交を結ぶべき」という声も出ています。

世界第2位の経済大国の中国(中華人民共和国)の存在は無視できず、今の中国との関係を切って(断交し)、台湾と国交を樹立する、ということはかなり過激に聞こえますが、民主主義、人権、自由などの価値観や、戦前からの歴史を考えると、日本人やアメリカ人が台湾の方に親近感を感じることは普通であると思います。

日本と台湾は、もちろん国と国との関係は持たないわけですが、中国の一部として、経済や友好親善関係を維持しています。

ニカラグアの台湾との国交断絶

上記のとおり、台湾とこれまで国交を結んでいたことの方がむしろ珍しかったわけですが、それでもニカラグアが台湾ではなく中国と国交を結んだことは、米国を筆頭にした西側諸国にとっては一定のインパクトを持つと言えます。

これは、独裁的なニカラグアの現政権が、西側ではなく中国側に与(くみ)したという、政治的な面が大きいと考えます。

ニカラグアはラテンアメリカおよびカリブ諸国の中で最も貧困な国の一つと言え、経済的なメリットを考えれば、経済大国の中国と関係を結ぶという選択自体は理解できると思います。中国の途上国への支援は、目先の資金がほしい指導者にとっては魅力的に映るパッケージも多いでしょう。

これに加え、ニカラグアの現在の大統領であるダニエル・オルテガは、Frente Sandinista de Liberación Nacional (FSLN・サンディニスタ民族解放戦線)という、キューバ革命や、米国に反抗が政治思想の根底にある左翼政権です。オルテガ大統領は、2021年選挙で当選したことで、2007年から4期連続で大統領を務めることになります。

こうした政権が、中国(中華人民共和国)と国交を結んだ、ということが、西側諸国にとってはインパクトがあるものと言えます。

今次のニカラグアの中国との国交樹立(台湾との国交断絶)が、他の中南米諸国にも波及するかというと、それ自体の影響は大きいとは言えないように思います。ニカラグアの独裁色、政治による貧困は同じ地域内でも批判されているので、その国のやり方を直ちに真似る、ということも政治的に良い効果があるとも思えません。

ただし、中国は引き続き、中国を国家承認していない(中華民国と国交を維持している)国への働きかけを強めるでしょうし、例えばホンジュラスは、左派・親中で知られるシオラマ・カストロ氏が大統領選を勝利し、2022年1月から12年ぶりの左派政権の誕生が予定されています。ホンジュラスのフアン・オルランド現大統領は、カストロ政権発足後も中華民国との関係は維持されると言っていますが、政権が交代してみないとわからないところもあります。

まとめ

今回は、ニカラグアの台湾との国交断絶から、各国の台湾との関係の基本的なことを解説させていただきました。

台湾と外交関係を有している国には中南米の国が多いので、今後もチェックしていきたいと思います。(特に来年以降のホンジュラスが気になるところです。)

この記事が少しでも参考になれば幸いです。

(※本記事は当ブログの運営者の私見に基づくものであり、所属する組織とは無関係のものです。)

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