【スペインの中南米征服の根幹制度】よくわからないエンコミエンダやカピトゥラシオンをゆるく説明する

ラ米研究

15世紀前半から16世紀前半のスペインの征服者達(コンキスタドーレス)がアメリカ征服の根幹となった制度として「エンコミエンダ」と「カピトゥラシオン」があります。これに「都市自治体」制度を加えた3つが、スペインのアメリカ征服の根幹となる制度であったと言われます。

本記事では、なかなか理解しにくいこれらの制度をできるだけわかりやすく紹介したいと思います。

(※本記事は筆者の私見でイメージ重視で書かれたものなので、正確でない描写を含み得ますところ、予めご了承ください。)

エンコミエンダとは「征服者にとって最大の既得権益」

スペインによるアメリカの先住民支配を語る上で必ず出てくる単語がこの「エンコミエンダ」です。

よく、エンコミエンダとは、「征服地の住民のカトリック布教と保護を条件に,征服者や植民者にその土地・住民の統治をまかせる委任制度」みたいな説明がされるかと思いますが、若干イメージがしにくいような気がします。任せるのは誰が誰に任せるのか、国王が任せたのであればなぜ国王からこの制度が潰されようとするのか・・・

そこで、イメージ重視でその肝(キモ)が何かを言えば、エンココミエンダとは「本国では身分の高くない征服者たちが、封建領主の貴族さながら、自由に開発し働かせることのできる土地と住民をゲットする権利」といえ、「征服者XがA町のエンコミエンダを所有する」というのは、征服者XがA町にいる先住民を働かせ納税させる権利を持つ(=そうしたことをして良いと委任される。)ということです。エンコミエンダを持った人のことを「エンコメンデーロ」と言います。

エンコミエンダは、元々征服初期のカリブ海のエスパニョーラ島で金(ゴールド)の採掘のための人手集めのためにいろんなところから先住民を拉致し(連れてきて)、一箇所に住まわせ、征服者の下労働させ、貢がせたことが始まりとされるので、労働力確保と土地開発のための制度とイメージすると理解しやすい気がします。

新しい土地を征服しても、そこが更地(さらち)のままだとあまり意味がなく、農業なり建設なり生産活動を住民にやらせ、そこから収益を上げさせないと、征服者たちも旨味がなく、国王に対しても上納ができないので、こうした生産活動をやらせるのがエンコミエンダ制であったのです。

また、「征服者」についてですが、メキシコ・ホンジュラスを征服したフェルナンド・コルテスやペルーを征服したフランシスコ・ピサロらは有名ですが、彼らの部下や同僚、先輩みたいな征服者達がたくさんいます。コロンブス以降は、航海の前例があるとは言え、15世紀後半〜16世紀前半の当時スペインからアメリカに船で向かい、未開の地で生活を続けることはかなりのリスクであり、しかもこれは民間人が自己責任で行っているものです。これを達成した人たちからすると、相応のリターンがなければ納得せず、逆に言えばリターンがあると思うからリスクを犯すわけです。このリターンに当たる主要なものがエンコミエンダであったとも考えることができるでしょう。

一般市民がリスクを取って成功したとは言え封建領主貴族のような強力な権限を持ってしまうこのエンコミエンダ制は、スペイン王室や王室の考えに近い人からすれば一旦収益を得た後(納税させた後)は潰したい制度です。一方でエンコメンデーロからすれば手放したくない既得権益あり、この攻防は独立前まで続いたと言えます。

なお、誰から誰に「委任」するということなのかと言えば、国王からエンコメンデーロに対し委任するということになります。ただし、現場では、カピトゥラシオンを結ぶ征服者「総督」がその部下などにエンコミエンダを与えるイメージとなります。

カピトゥラシオンとは「所得税支払う代わりに新開地を治める役職を得る契約」

カピトゥラシオンは、スペイン国王と征服者ボスの間で結ばれる約束(協約)、契約です。

一発目のコロンブスの航海より後のアメリカへの航海は、基本的に全て征服者の自己責任で行われるものでした。つまり、起業家が自分で資本と人材を集め自分で企画し、自分自身でリスクを取って、アメリカ征服という一大ビジネスに挑むのです。

このビジネスにより、どの国にも属さない土地(欧州列強視点)が開かれていくわけですが、この土地の扱いについて、起業家目線に立てば、次の選択肢が想起されそうです。

①自分が開拓した土地なので、新しい自分の国とする。
②既存の国(スペイン)のものであるが、自分がその土地の治める権利を得る。

①は、実はやろうとした人もいるのですが、自身と自身が率いる兵隊と治めた先住民だけで国を維持できるほど建国とその維持は甘いものではありません。スペインやその他列強、他の征服者に潰されるリスクに常に晒されつつこれをやる、というのは、早々にできるものではありません。

従って、自分のビジネスとしてアメリカを平定していく征服者にとっても②が最も現実的な選択肢となります。カピトゥラシオンは、②を国王と征服者(起業家)が認め合う協約(合意)書のようなものであるとイメージできます。

起業家は、これから征服する土地で得られる見込みのリターンについて国王にプレゼンを行い、国王がこれを認めカピトゥラシオン(契約)が結ばれれば、起業家は征服で得られるリターンの20%(5分の1)を王室に納めることを約束する代わりに、征服で得られる見込みの土地の「総督」のポストに国王からあらかじめ任命してもらうことができます。

イメージで言えば、征服企業の社長が、カピトゥラシオンにより、所得税を収める代わりに新しい土地の「県知事」ポストをもらえるような感じです。

スペイン本国王室からすれば、リスクを冒さずリターンを得ることができ、起業家からすれば、これから征服する土地の権利を公式にゲットし、他の征服起業家との競争に勝つことができます。

都市自治体とは「征服後のスペイン風の自治都市」

総督としては、軍事力で征服を行った次は、その土地をスペイン風の自治体「市」にしていきます。征服起業家でありながら、新しい土地でゼロから都市自治体を発足させるという超弩級の行政手腕が求められたのですが、総督たちはこれを次々行って行き、征服→都市自治体設置の流れが各地で行われて行きます。

Cusco, Plaza de Armas

征服された土地は、都市ごとに、予め国王とカピトゥラシオンを結んだ総督(征服企業社長兼県知事のイメージ)により、都市自治を担うことになる市民団が選ばれます。市民団は総督の下で征服を行った者たち(自社社員のイメージ)から選ばれ、当然これらの者はより良い都市(人口が多いなど生産活動が多く行えそうな都市)の市民団となりたいので、ある意味デリケートな人事であると言えます。市民団は市議会議員たちのイメージです。

市民団は、都市計画(スペイン風のプラサ(広場)と碁盤状の街路等)と地割り(征服者たちによる土地の分配)を行い、それぞれの市民(征服者)が与えられたエンコミエンダ(労働力が含まれる)により、都市開発が進んで行きます

まとめ

1492年以降のスペインのアメリカ植民地化の「やり方」を見ていく上で避けて通れない「エンコミエンダ」、「カピトゥラシオン」そして「都市自治体」を、イメージ重視で紹介していきました。

スペインの征服初期の基盤となった三つの制度は、当時の時代背景、つまりはハイリスクハイリターンの征服事業に打って出た征服起業家達の心境や、そうした民間起業家とスペイン王室との関係を想像しながら見ていくことで、納得感が得られそうです。

そうした征服起業家と社員たちの時代も次の時代へと移って行き、統治制度も変形して行きますが、征服初期のイメージを持っておくことで、その後の変遷もうまく理解していくことができるかと思います。

主な参考文献

・世界の歴史 18 ラテンアメリカ文明の興亡 (高橋 均 / 網野 徹哉 著)中央公論社
・物語 ラテン・アメリカの歴史 (増田 義郎 著) 中公新書)

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