ラファエル・コレア氏は、エクアドルで最も影響力を持っていた政治家でありながら、現在は有罪判決を受けて国外在住を余儀なくされるという、政治家としては「殺された」と形容される状況にあります。
一方で、コレア氏はそのような状況下でもネットを主戦場に闘いを続けています。
本記事では、コレア氏のネット上の発信力と、政治的影響力をみていきたいと思います。
結論的には、コレア氏は、有罪判決を受け、国外在住を余儀なくされてもなお、エクアドルで最も強い政治的影響力を持ち続けている考えます。
コレア氏の現状:有罪判決を受け国外在住
ラファエル・コレアはエクアドルの元大統領(任期:2007-2017年)で、ラテン・アメリカにおける『急進左派』、『21世紀の社会主義』で呼ばれる政治傾向を構成した政治家・愛国者として、エクアドルのみならず、ラテン・アメリカ、ひいては世界的に著名な人物です。
しかしながら、その後継者であったはずのレニン・モレノ元大統領(任期:2017-2021年)の任期中に、コレア氏の大統領としての再選が禁止され*、有罪判決が出されるという**、コレア氏に言わせれば(自身や投票者に対する)「大きな裏切り」を受け、国内の政治活動は完全に封じられてしまっています。
*2018年、国民投票で公職の三選を禁じることを憲法にて制度化。コレア氏はすでに2期大統領を勤めているため、現行憲法上、大統領選に立候補することは二度とできなくなった。
**2020年、エクアドル最高裁は汚職の罪でコレア元大統領に対し禁錮8年を求刑。帰国すると刑務所に入れられることになるため、コレア氏はエクアドルに帰れていない(ベルギー在住)。
2020年の有罪判決を受け、コレア氏の政治家としての「死」(muerto como polítocoなど)もささやかれました。
ここまでされるとさすがに諦めてしまいそうですが、非凡な精神力とカリスマ性を持つコレア氏は、ツイッターや他国のテレビ・ラジオを通じて、精力的な発信を継続しています。
2021年大統領選挙でのコレア氏の副大統領立候補説(前述の有罪判決により不可に。)があったように、引き続き強力な政治的影響力を持ち続けています。
コレア氏のネット上の発信力
「ネット上で最も影響力のあるエクアドル人」調査
2013年の「ネット上で最も影響力のあるエクアドル人」調査(Llorente & Cuenca社実施)で、コレア氏(当時大統領)は最も影響力のある人物に選出されました。当時の結果は以下のとおりで、これは当時の大統領府プレスリリースでも引用されています。
順位 | 氏名 | 略歴概要 | 影響力指数 | カテゴリー |
---|---|---|---|---|
1 | ラファエル・コレア | エクアドル大統領 | 75.2 | 政治家 |
2 | アントニオ・バレンシア | サッカー選手(マンチェスター・ユナイテット/エクアドル代表) | 59 | スポーツ選手 |
3 | マリア・テレサ・ゲレロ | テレビキャスター | 47.4 | テレビタレント |
4 | ビト・ムニョス | スポーツ記者/テレビキャスター | 43 | 記者 |
5 | フアン・フェルナンド・バレスコ | アーティスト・歌手 | 43 | 芸術・文化 |
この結果におけるコレア氏の影響力指数の高さは他とは別格で、突出しています。国民的スポーツのサッカーにおけるスーパースター、マンチェスター・ユナイテットで主将を務めた2位のバレンシア氏ともその差は大きくなっています。
ツイッター・フォロワー数に見る影響力
前述の調査結果も参考に、著名なエクアドル人のツイッターのフォロワー数を調べてみたところ、以下のとおり、2022年現在もコレア氏が突出して多いことがわかりました。
コレア氏のフォロワー数は、幅広く人気のゲレロ氏や元マンU主将のバレンシア氏よりも2倍以上多く、現大統領(ラソ氏)、前大統領(モレノ氏)よりも3倍以上多くなっています。
他の大国の大統領と比較しても、各国の人口比(エクアドル1,760万人、ブラジル3.1億人、メキシコ1.2億人)を考慮すれば、かなりのフォロワー数であろうと言えます。大統領制ではないですが、日本人からみても、フォロワー数378.7万人は相当多いと思われるのではないでしょうか。
エクアドル国家元首を退き5年が経ち、有罪判決も受けているコレア氏ですが、引き続きエクアドルで最も発信力を持っている人物であるということができそうです。
氏名 | 略歴概要 | ツイッター・フォロワー数(2022年4月1日時点) |
ラファエル・コレア | エクアドル元大統領 | 378.7万人 |
マリア・テレサ・ゲレロ | テレビキャスター | 150.7万人 |
アントニオ・バレンシア | 元サッカー選手(マンチェスター・ユナイテット/エクアドル代表) | 144.0万人 |
ギジェルモ・ラッソ | エクアドル現大統領/銀行家 | 110.2万人 |
レニン・モレノ | エクアドル前大統領/元副大統領 | 108.0万人 |
(参考)アルベルト・フェルナンデス | アルゼンチン現大統領 | 217.6万人 |
(参考)ジャイル・ボルソナロ | ブラジル現大統領 | 750.2万人 |
(参考)アンドレス・マヌエル | メキシコ現大統領 | 863.7万人 |
コレア氏の政治的影響力
ツイッターでの毎日の精力的な発信
ツイッター・プロフィール文で「疲れを知らない闘士達が羨ましい。私は疲れるが、でも闘い続ける。」(引用:コレア氏ツイッタープロフィール)と、顔文字付きで書いているコレア氏。流石にお疲れではある模様ですが、その発信は毎日ペースで、しかもものすごい数のツイートで行われています。
コレア氏のツイッターの発信内容は、モレノ前大統領やラッソ現大統領をはじめとした政権への批判・反論が目立ちます。有罪判決をはじめ、コレア氏が大統領を退いてから受けている汚名は政権の政治的迫害であり、権力の乱用であるという、ディフェンスの発信から、ラッソ現大統領の租税回避問題の追及などのオフェンスの発信まで、歯に絹着せず行っています。
また、コレア政権下の功績に関する記事やツイートの引用(リツイートなど)も入念に行っています。もちろん、スポーツ分野のエクアドル人の活躍など、政治傾向のない愛国的なツイートも多数です。
国内に戻れず、有罪判決も受けている状況なのでメディアへの露出は限定的ですが、アルゼンチンなどの他国を訪れた際にテレビやラジオのインタビューを受けていたり、エクアドルのオルランド・ペレス氏の番組に遠隔で出演したりと、機会を捉えて発信を行っているようです。
計り知れない政治力のポテンシャル
2021年選挙でコレア氏待望論が起こったように、コレア氏は引き続き一定の岩盤支持層を持ち続けています。前述でみたとおり、そのネット上の発信力は国内随一です。
一方で、街頭演説や集会があらゆる国の選挙戦で重要であるように、政治家にとって、現場(オンサイト)の存在感は、ネットが普及した現代においても欠かせないものです。
この点、コレア氏が国内に戻って自由に動けるようになれば、その政治的影響力は計り知れないものがあります。実際、2021年大統領選挙で3度目の大統領選を戦う玄人のラッソ候補に対し若輩のアラウス候補(コレア派)が善戦したことからも、コレア氏の「自身が国内にいたなら、それだけで(アラウス候補が)勝てたであろう」、という発言は、的を射ているのだろうと思います。
もし選挙前に有罪判決を受けず、コレア氏が国内で選挙キャンペーンを行うことができていれば、また副大統領候補となることができていれば、アラウス候補の当選の可能性は高まっただろうと予想されます。もしアラウス氏が当選していれば、憲法改正(例えば、連続でない三選を可能にするなど)と、その後のコレア政権のカムバックも現実味を帯びていたでしょう。
影響力や人気はありながら、その動きや可能性がことごとく潰されるコレア氏のイバラ道を考えると、その無念は想像してもしきれないものがあります。まさにコレア氏の心境はツイッタープロフィールの言葉のとおりなのだろうと思います。
まとめ
コレア元大統領は今や自国で有罪判決を受けている一私人ですが、多くが新派であろう378万人に対するその日々の発信は、引き続き政治的重要性を持ち続けていると考えられます。
将来のどこかのタイミングでコレア派が政権を奪取し、有罪判決などの汚名を返上するまで、コレア氏はネットを主戦場に闘い続けるでしょう。
コメント