『チパ』は、主にパラグアイで食べられる黄色いパンの様な食べ物ですが、本記事ではその『チパ』とはなんなのか、ということを掘り下げつつ、70種類と言われる「チパ系」の食べ物の代表的なものを紹介していきます。
パラグアイの国民食『チパ』とは?
チパは、一言で言えば「キャッサバ粉と生チーズのパン」であると言えます(引用:在京パラグアイ大使館HP(※HPの改訂によってか、2023年9月24日時点では同HP内でチパの紹介が見当たりません。日本語で紹介された数少ないオフィシャルなソースであったので、復活を望みます。))。
見た目のイメージの紹介としては、例えば以下のパラグアイ政府国家食栄養庁(Intituto Nacional de Alimentación y Nutrición)のページを掲載してみます。
なお、キャッサバは、現地では「マンジョカ」とも言われるパラグアイの主食です。タピオカの原料であると言えば想像がつくように、結構もちもちする細長い芋です。
チパは、ただのパンというよりは、もちもち食感とチーズの味で、日本でより馴染みがあるものとしては、コンビニなどで「チーズパン」として可愛いサイズで売られているようなブラジルの「ポンデケージョ」に近い味です。一方チパは、中はもちもちでありつつ表面は結構固かったり、5人で分けて食べられるような大きなリング状で売られていることも多いです。
形はさまざまなで、リング状(ドーナツ状)のものもあれば、握り拳くらいの大きさの丸い形だったり、フランスパン風だったりもします。
また、現地のチパには、特に大きなリング状のものには、アニシードが入っていることがあり、これがあることで香りが加わりさらに味わい深くなりおいしくなります。筆者は、チパを買って、アニシードが入っていないと残念に思っていたのを覚えています。
後に紹介するように、チパ系の食べ物は多数存在します。そのため、普通のチパを明示するため、上記チパをChipa Almidón / Chipa Aramiró / Chipa Tradicionalなどと呼んだりもします。
細かく言えば、いわゆる普通のチパでも、その形状などによってそれぞれ呼び名が与えられている(例えば、Chipa Almidónは丸い形のものである、等)ようではありますが、現地での感覚としても、そのあたりはそこまで厳密に区別せず、黄色くてチーズの香りのするパンっぽいものは大体全てチパということで良い気がします。
チパの起源は?
チパの起源は諸説ありなので、あまり突っ込んだ議論は割愛し、ここでは、もともとは、ただただ澱粉質のものを焼いただけのような無発酵パン(Pan ácimo)のことを指していたグアラニー語が起源であるという説があるようです、ということを紹介したいと思います。
なお、グアラニーは、南アメリカ大陸の先住民族の一つで、パラグアイのアイデンティティを構成する重要な要素です。
一方で、チパのルーツは必ずしもパラグアイだけではない、という説もちらほら見られ、これが度々議論になることがあります。これについては、2019年にUNESCOの投稿が炎上した件を含め、別記事で紹介ができればと思います。
いずれにせよ、以下述べるように、チパはパラグアイのものでるという理解をしておけばあまり間違いはありません。
チパは現地ではどんな存在?
チパは、パラグアイでは当たり前にどの層の人も食べる国民食です。
実際、2014年のパラグアイ国会決議により、チパはパラグアイの「国民食(Alimento nacional)」に定められ、8月の第二金曜日が「チパの日」と定められています(決議(decreto) N° 5267/2014)。
また、2015年パラグアイ文化庁決議により、チパはパラグアイの無形文化遺産として登録がされています。
筆者は小学生時代をパラグアイで過ごしていましたが、もちろんチパはよく食べました。チパ屋さん(Chipería)を始め、色々なお店で売られているし、高速道路の料金所などで、売り子の人が大きな丸いザルを頭に乗せて「チパチパチパ」と連呼しながら売られていたりします。
チパ系の食べ物はなんと70種類
パラグアイにいると、いわゆるチパ以外にも、チピータ、チパグアスのように、色々なチパに出会います。そしてそれらは一方ではカリカリスナックであったり、一方では肉や卵が入ってお皿で提供されたり、見た目も味も非常に多種多様です。
一説にはそういったチパ系の食べ物は70種類も存在する(ミロ(2001年))と言われるように、そんな多種多様なチパ系の食べ物のうち、筆者のパラグアイ(首都アスンシオン)滞在時代の経験を踏まえ、個人的に最もよく食べ、最も美味しいと思っていたものを中心に、いくつか紹介したいと思います。
チピータ / チパ・ピル
チピータ(Chipita)は、チパ(Chipa)の縮小辞(diminutivo)です。したがって、言葉としても「チパの小さいやつ」とか「チパちゃん」みたいなニュアンスです。チパ・ピル(Chipa Pirú)とも言われるようですが、筆者にとってはチピータの方が一般的に使っていた印象があります。
チピータは、ただ小さいだけではなく、カリカリした食感が特徴で、チパのもちもち食感はありません。一口または二口サイズくらいの大きさで、通常リング状(ドーナツ状)の形をしています。
袋やパックにたくさん入って売られ、チパのスナックバージョンといった形です。
例えば以下のサイトにあるような形で売られたりしています。
なお、乾燥しているスナックなので、お土産などにも便利です。例えば、以下では、新任の在バチカン・パラグアイ大使がローマ教皇(パパ・フランシスコ。アルゼンチン人)へ信任状を捧呈する際、手土産としてチピータを手渡したことがニュースになっています。
一方、以下の動画では、チピータが「甘いお菓子(dulce)」であると紹介されておりますが、それは間違いで、チピータは甘くない、しょっぱいスナックです。
前述のとおり、チパは度々アルゼンチンも起源の一つというように紹介され炎上することがあるので、その意味でもこのパラグアイ大使からのチピータの贈呈はエモいものになっています。
チパ・グアス
チパ・グアス(Chipa Guazú)は、在日パラグアイ大使館で紹介されていたものを引用すれば、「とうもろこしケーキ」であり、実際スペイン語で”Pastel de Choclo”(意味はトウモロコシケーキ)とも呼ばれる料理です。筆者は幼少期「チワパス」と呼んでいました。
ケーキと言ってもデザートということではなく、トウモロコシの甘みはあれど、チーズの味と塩気があり、ご飯として食べられます。
見た目とレシピの一例は以下のサイトで見られますが、いわゆるチパのパンっぽい雰囲気から一変して、グラタンのように耐熱皿などで焼くスタイルになっており、しかもメインの原材料もキャッサバではなくトウモロコシになっています。この辺りからチパ系食べ物の多様性をわかっていただけるかと思います。
食感はしっとり、トロっとしたものから、少しパサついた感じのものもあります。筆者はしっとり、トロっとしたものが大好きでした。自然な甘さがあり、子どものおやつにもバッチリです。
なお、チパ・グアスは基本的に肉類が入っていない料理であるため、キリスト教における四旬節(しじゅんせつ。復活祭の40日前から前日)や聖週間(Semana Santa)のような食事制限がある時期にも好んで食べられる料理です。一方、肉が入ったチパ・グアスもあるとか・・
チパ・ソ
チパ・ソまたはチパ・ソ・オ(Chipa SO’O)は、牛肉などの具をチパで包んだようなチパ系食べ物です。
チパの生地にはトウモロコシも入ることが多いようです。見た目とレシピの一例は以下になります。
こちらは結構ガッツリ系で、甘みよりも塩気がしっかりしている印象です。生地はしっとりというよりボソボソのことが多く、その分具がジューシーです。卵が入ったりもする完全食といえます。
引っかけ?のソパ・パラグアージャ
上記で色々なチパ系食べ物を見てみると、生地もマンジョカとトウモロコシで異なり(さらにいえばピーナッツ粉が入ったチパ・マンディビなどもある。。)、食感、食べ方も千差万別です。なんとなく共通項を挙げるとすると、黄色や茶色系の生地(粉)を使った食べ物であることが伺えます。
一方、パラグアイの伝統料理でチパと同じくらい重要な国民食として、「ソパ・パラグアージャ(Sopa paraguaya)」があります。これは「とうもろこし粉、生チーズ、玉ねぎのパイ(在日パラグアイ大使館(当時))」なわけですが、これはチパとは呼ばれません。
さらにいえば、Sopa(スープ)でもありません。
そんな少しツッコミどころの多いソパ・パラグアージャですが、大変美味しいです。若干チパ・グアスと被るかもしれませんが、ソパ・パラグアージャは玉ねぎが役割を果たしていることが特徴で、チパ・グアスよりも焼き上がりの固形感が強く、手で持って食べられることが多いといえます。
見た目とレシピの一例は以下です。ハムが入ったりもします。
宇宙に行ったチパ
パラグアイ国民に愛されるチパのまつわる話を一つ挙げると、チパは愛されすぎて宇宙に行ってしまった、というエピソードがあります。
カトリカ大学とアスンシオン大学工科学部の学生により、2017年に、上空30メートルにチパを打ち上げる、というプロジェクトが遂行され、「世界初の宇宙チパ」として盛り上がっていたようでした。
動画は以下で、リング状のチパが宇宙に持っていかれている様子が見られます。なんとも微笑ましく平和なニュースですが、如何にチパが国民に広く愛されているかがわかるエピソードといえるのではないでしょうか。
まとめ
本記事では、パラグアイの国民食「チパ」とは何か、ということを紹介しました。チパはパラグアイ国民に愛され、広く食される国民食であり、チパ系の食べ物は実に多種多様であることを知っていただけたのではと思います。
なお、パラグアイには、食文化以外にも、蜘蛛の巣のように繊細な刺繍ニャンドゥティーやたくさんのガラス瓶を頭に乗せて踊るダンサ・パラグアージャなどの有形無形の文化、ペッカリー、ハチドリ、ボラーチョの木などの固有の動植物など、魅力がたくさんありますので、ぜひ様々な角度からパラグアイを眺めてほしいと思います。
この記事が少しでも参考になれば幸いです。
参考文献
- Salud Pública y Bienestar Social de Paraguay
- Instituto Nacional de Alimentación y Nutrición
- “Paraguay celebra hoy el Día Nacional de la Chipa“, 9 de agosto de 2019, Agencia de Información Paraguay
- “Alimentación y religiosidad paraguaya: Chipa, pan sagrado”, Margarita Miró Ibars (2001)
- “Cultura aclara que la Chipa es patrimonio inmaterial del Paraguay“, 12 de junio de 2019, La Nación
- Wikipedia “chipa”
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