メルコスールの成果を分析する上で、引き続き基本情報として、その経済的な規模や加盟国の輸出入の国別割合などを確認していきたいと思います。
結論としては、メルコスールは、それが目指す統合の性格とは別に、その規模から、ラテンアメリカで最も重要な経済統合のグループであると言えます。一方で、直近のトレンドを見ると、域内貿易は必ずしも活発になっているとは言えないようです。
なお、メルコスールの起源・結成・構成国などの基本情報に関しては、以下の記事を参考にしていただけます。
メルコスール 経済的規模
グループ全体の面積と人口
まず、メルコスールが包括する国土面積は約1,500万㎢* であり、ラテンアメリカ全体の70%以上を占めます。これは、EUの3倍を超える面積に当たります。
*メルコスール公式HPではメルコスールの国土面積は「casi 15 millones de km²」(1,500万㎢近い)と記載されています。筆者がFAO(2019)ベースで加盟国の国土面積を計算してみると、ベネズエラ、ボリビアまでを含めても1,389万㎢でしたので、1,500万㎢はベネズエラ、ボリビアも含めた数字だと考えられます。
また、メルコスールが包括する人口は約2億9,500万人以上** であり、これはラテンアメリカ全体の人口の約45%に当たります。(EUの人口(約4.9億)と比べると、より少ないです。)
**メルコスール公式HPの「más de 295 millones de personas」からの引用。筆者が世銀(2020)ベースで計算すると、ベネズエラを含めると2億9,698万人、さらにボリビアも含めると3億865万人でした。
加盟国ごとのデータ
加盟国の経済規模を示すデータ(2012年および2020年データ)は、以下の表にまとめました。
【メルコスール加盟国の規模と輸出:2012年データ】
加盟国 | GDP(USD)【順位】 | 人口 | 輸出量(100万USD) | 輸出(対GDP比(%)) |
ブラジル | 2兆2,526億【7位】 | 1億9,865万人 | 282,875 | 12.6 |
アルゼンチン | 4,755億【26位】 | 4,108万人 | 93,743 | 19.7 |
ウルグアイ | 499億【77位】 | 339万人 | 13,108 | 26.3 |
パラグアイ | 355億【96位】 | 668万人 | 11,886 | 46.6 |
ベネズエラ | 3,812億【31位】 | 2,995万人 | 99,786 | 26.2 |
【メルコスール加盟国の規模と輸出:2020年データ(※2022年3月時点最新)】
加盟国 | GDP(USD)【順位】 | 人口【順位】 | 輸出量(100万USD) | 輸出(対GDP比(%)) |
ブラジル | 1兆4,447億【12位】 | 2億1,255万人【6位】 | 243,738 | 16.9 |
アルゼンチン | 3,892億【31位】 | 4,537万人【32位】 | 64,589 | 16.6 |
ウルグアイ | 536億【80位】 | 347万人【132位】 | 13,607 | 25.4 |
パラグアイ | 356億【95位】 | 713万人【105位】 | 11,933 | 33.5 |
ベネズエラ | 473億【87位】 | 2,843万人【50位】 | 4,980 | – |
2012年のベネズエラの加入は、当時、南米の経済3大国がメルコスールに入ったことを意味しましたが、2022年現在のベネズエラのGDPはかつての13%程度まで縮小しています。
前述の国土面積も含め、ブラジルの規模の大きさが突出しており、チリ、コロンビア、ペルーなどの関係国(Países Asociados)の参加も考慮すると、メルコスールはラテンアメリカ最大の経済圏であるということができます。
なお、政治に起因する混乱等を受け、ベネズエラのGDPは、2012年のGDPをピークとし、その後10分の1近くまで急落していきます。これについては、以下の記事をご参照ください。
世銀データ上、アクセスできるベネズエラの輸出額(世銀データ)は2014年分が最後となっており、その後は不明です。今後のベネズエラの復活に期待をして、以下の統計分析では、2012年データ(マドゥロ政権発足前。南米第3の経済大国の時。)を度々採用しつつ、2022年時点の最新データ(2020年データが多い)と比較していきたいと思います。
ベネズエラ要因に加え、2020年統計はコロナの影響もあり、2012年統計の方が経済規模・輸出額は大きくなっています。個別のに見ると、ブラジル、アルゼンチン、ベネズエラのGDP、輸出額は減少しており、ウルグアイ、パラグアイのそれは微増しています。
メルコスール 他の統合体との比較
次に、メルコスールを、EU(欧州連合。世界最大の単一市場)、NAFTA(北米自由貿易協定。北米の大国とラテンアメリカ第2の大国)、ASEAN(東南アジア諸国連合。東南アジアの力ある開発途上国の連合)と比較してみます。
なお、2012年統計、正式加盟していないボリビアを引き続き含めず比較します。
【経済統合体の経済規模の比較:2012年データ】
加盟国数 | GDP(USD) | 人口 | 輸出額(100万USD) | 輸出(対GDP比(%)) | |
MERCOSUR | 5 | 3兆1,848万 | 2億7,978万人 | 836,413 | 26.3 |
ASEAN | 10 | 2兆2,719万 | 5億5,560万人 | 1,447,666 | 63.7 |
NAFTA | 3 | 19兆2,023万 | 4億6,951万人 | 4,916,385 | 25.6 |
EU | 27 | 16兆6,609万 | 5億558万人 | 7,184,619 | 43.1 |
GDPの比較
経済規模をみると、先進国の中でも特に大きな国を含むEUやNAFTAと比較すると、メルコスールの経済規模はその20%にもなりません。
一方で、メルコスールと同じく開発途上国の連合であるASEANと比較すると、メルコスールの方が1.7倍程度大きいです(2012年データに基づく。)。
メルコスール全体を一つの国と考えると、そのGDPは、世界第5位でした(世銀(2012))。ちなみに、ベネズエラが縮小した現在は、世界第8位(世銀(2020))となっています。
輸出量・対GDP比の比較
一方で、メルコスールの輸出の量およびGDPに占める割合は、ASEANと比べ、控えめな数字になっています。これは、長年「輸入代替工業化(ISI)」モデルを採用し国内需要に頼ってきたラテンアメリカの国々と、輸出の増加を成長の戦略としてきた東アジア諸国との歴史的な違いによるものであると言えます。
メルコスール結成の背景には、別の記事で見たとおり、ISIモデルを見捨て、輸出を増加させようとする政治的意図がありました。その具体的な達成状況については今後見ていければと思います。
メルコスール加盟国の輸出入:輸出入先国別割合
次のグラフは、メルコスール加盟国の輸出入先の割合(2012年データおよび2019年データ)を示しています。
【メルコスール加盟国の輸出先(100万USD):2012年データ】
1 | 2 | 3 | 4 | Total | |
ブラジル | 中国 (41.242) (17.0%) | 米国 (26.927) (11.1%) | アルゼンチン(17.952) (7.4%) | オランダ (17.538) (6.2%) | 242,600 (100%) |
アルゼンチン | ブラジル (16.506) (20.4%) | 中国 (5,987) (7.4%) | チリ (4.855) (6.0%) | 米国 (4207) (5.2%) | 80,910 (100%) |
ウルグアイ | ブラジル (1.840) (18.6%) | 中国 (1.770) (17.9%) | アルゼンチン (613) (6.2%) | ドイツ (425) (4.3%) | 9,890 (100%) |
パラグアイ | ウルグアイ (2.106) (17.7%) | ブラジル (1.952) (16.4%) | アルゼンチン (1.856) (15.6%) | ロシア (1.428) (12%) | 11,900 (100%) |
ベネズエラ | 米国 (38.060) (39.1%) | 中国 (13.920) (14.3%) | インド (11.681) (12.0%) | オランダ (7.593) (7.8%) | 97,340 (100%) |
【メルコスール加盟国の輸入先(100万USD):2012年データ】
1 | 2 | 3 | 4 | Total | |
ブラジル | 中国 (34.149) (15.3%) | 米国 (32.587) (14.6%) | アルゼンチン (16.517) (7.4%) | ドイツ (9.151) (4.1%) | 223,200 (100%) |
アルゼンチン | ブラジル (17.830) (27.2%) | 米国 (10.226) (15.6%) | 中国 (7.801) (11.9%) | ドイツ (2950) (4.5%) | 65,550 (100%) |
ウルグアイ | 中国 (2.011) (16.4%) | ブラジル (1.827) (14.9%) | アルゼンチン (1.790) (14.6%) | 米国 (1.116) (9.1%) | 12,260 (100%) |
パラグアイ | ブラジル (2.677) (24.2%) | 中国 (2.157) (19.5%) | アルゼンチン (2.024) (18.3%) | 米国 (1.272) (11.5%) | 11,060 (100%) |
ベネズエラ | 米国 (18.801) (31.7%) | 中国 (9.964) (16.8%) | ブラジル (5.397) (9.1%) | コロンビア (2.847) (4.8%) | 59,310 (100%) |
【メルコール加盟国の輸出先(100万USD):2019年データ】
1 | 2 | 3 | 4 | Total | |
ブラジル | 中国 (28%) | 米国(13%) | – | – | 260,070 (100%) |
アルゼンチン | ブラジル(16%) | 中国(11%) | 米国(7%) | チリ(5%) | 79,290 (100%) |
ウルグアイ | 中国(29%) | ブラジル(12%) | 米国(5%) | オランダ・アルゼンチン(5%) | 16,990 (100%) |
パラグアイ | ブラジル(32%) | アルゼンチン(22%) | チリ(8%) | ロシア(8%) | 13,270 (100%) |
ベネズエラ | インド(34%) | 中国(28%) | 米国(12%) | スペイン(6%) | 83,401 (2018 est.) (100%) |
【メルコール加盟国の輸入先(100万USD):2019年データ】
1 | 2 | 3 | 4 | Total | |
ブラジル(2019年データ) | 中国 (21%) | 米国(18%) | ドイツ(6%) | アルゼンチン(6%) | 269,020 (100%) |
アルゼンチン | ブラジル(21%) | 中国(18%) | 米国(14%) | ドイツ(6%) | 66,280 (100%) |
ウルグアイ | ブラジル(25%) | 中国(15%) | 米国(11%) | アルゼンチン(11%) | 13,310 (100%) |
パラグアイ | ブラジル(24%) | 米国(22%) | 中国(17%) | アルゼンチン(10%) | 13,150 (100%) |
ベネズエラ | 中国(28%) | 米国(22%) | ブラジル(8%) | スペイン(6%) | 18,432 (2018 est.) (100%) |
まず、ブラジルの対アルゼンチン輸出量(額)と、アルゼンチンの対ブラジル輸出量(額)が近しいことがわかります(2012年データ)。一方で、それぞれの輸出に占める割合は大きく異なります。
次に、輸出入の相手に関し、歴史的にラテンアメリカと関係の深い米国のみならず、中国の存在感が高くなっていることが挙げられます。
また、加盟国の対ブラジル輸出入の割合は、ベネズエラの輸出を除き、全体的に高くなっています。
一方で、メルコスール加盟国の他の加盟国に対する輸出入の割合(依存度)は、2012年から2019年の間を見ても、全体的に増加していないということができます。もしメルコスールの域内の自由化や経済関係の緊密化がこの間進展していれば、このような結果にはならないと言えます。
まとめ
本記事では、メルコスールの経済規模や、加盟国の輸出入の状況について、基本的なところを見て行きました。
直近の輸出入のデータを見ても、メルコスールの結成時の目標に向けた進展が大きくあるようには見えないのが現状です。今後の記事では、メルコスールの成果について、より具体的に見ていければと思います。
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