太平洋同盟とは?【わかりやすく解説】左派ブームの中、ペルーが旗手となり誕生!

地域統合

太平洋同盟(Alianza del Pacífico)は、2012年に設立された中南米の経済統合グループです。メンバーはペルー、コロンビア、チリ、メキシコで、これにエクアドルが加わろうとしています(2022年1月に加入申請。)。

中南米に多数存在する統合グループの中で、太平洋同盟はどういった位置付けなのでしょうか。また、その成果はどのように評価できるでしょうか。
本記事では、「太平洋同盟とは?」を理解するため、設立経緯を紐解きその性質をできるだけわかりやすく紹介したいと思います。また、設立後10年間の成果をざっとまとめていきたいと思います。

このホームページで別途紹介しているメルコスールと太平洋同盟を理解すれば、中南米諸国それぞれの大きな政治・経済傾向に対する理解を深めることができるかと思います。

太平洋同盟とは?

スペイン語名は”Alianza del Pacífico”、頭文字を取りAPと略されたりします。日本語訳は「太平洋同盟」です。

太平洋同盟とはペルー、コロンビア、チリ、メキシコをメンバーとする、①加盟国間の経済統合とそれによる発展(域内自由化)②国際競争力確保とアジア太平洋市場への参入促進(域外市場への参入)の2つを目標の軸とするグループであると言うことができます。

太平洋同盟の公式HPは以下のとおりです。日本の外務省のHPでも概要がまとめられています。

Alianza del Pacífico. – El poder de la integración

加盟国

加盟国は、ペルー、コロンビア、チリ、メキシコの太平洋側の中南米4か国で、これに近々エクアドルが加わる予定で調整が進んでいます。

エクアドルは、モレノ政権下の2019年頃から太平洋同盟加入のための調整を始めており、モレノ政権よりもさらに新自由主義的なラッソ政権下の2022年1月に正式な形で加入申請が行われています。

Ecuador solicita formalmente su ingreso a la Alianza del Pacífico
El Gobierno ecuatoriano, presidido por Guillermo Lasso, solicitó oficialmente este su ingreso a la Alianza del Pacífico.

2022年4月現在のオブザーバー国は61か国、そのうちシンガポールとは2022年1月に自由貿易協定が結ばれ、シンガポールは初のパートナー国(Pais Asociado)となりました。

太平洋同盟メンバー(2022年4月現在)

【メンバー国】ペルー、コロンビア、チリ、メキシコ
【パートナー国】シンガポール
【オブザーバー国】日本、米国、欧州主要諸国を含む61か国(シンガポールを除くと60か国)
出典:太平洋同盟公式HP

性質

太平洋同盟を端的に特徴付ければ、最も欧米的価値観(中南米における「右寄り」)で自由貿易を推進する中南米経済統合グループであると言えます。そのため、域内自由化や経済活動の環境整備においては、南米の中では先進的なグループでもあります。

これについては、以下で太平洋同盟の起源を紐解きつつ、より詳しくみていきたいと思います。

太平洋同盟の起源①〜反USA式「帝国主義」勢力勃興〜

太平洋同盟のラ米の統合における位置付けや性質を理解するためには、その設立背景をみていくことが有効だと思います。

太平洋同盟の設立起源のキーワードとして、以下をあげることができると思います。これは、中南米の政治経済を理解する上でも重要な要素でもありますので、馴染みのないアクロニム(頭字語)も含め、もう少し詳しく見ていきたいと思います。

キーワード

ALCAとALBA
CANの危機
米国とアジアとの経済関係

なお、ラテンアメリカの統合を紐解く上では同地域での「輸入代替工業化」モデルからの転換や、ACALC(1960年結成)まで遡ることが必要ですが、今回はもう少し省略し、90年代のALCA誕生まで遡りたいと思います。

「輸入代替工業化」モデルからの転換については、以下の記事を参照いただくことができます。

ALCA:USAスタイルの自由貿易圏拡大構想

ALCA(Área de Libre Comercio de las Americas)は、英語だとFTAA(Free Trade Area of Americas)、日本語は「米州自由貿易地域」と訳されます。

名前のとおり、ALCAは南北アメリカの自由貿易圏を創るという壮大な経済統合で、第1回サミットがマイアミで開催されたように、米国(アメリカ)が主導していました。NAFTA(北米自由貿易協定)の他の中南米への拡大版とも言われ、USA式の自由貿易を南北アメリカに広く適用していくものとも捉えられます。

こうした動きの中で、中南米諸国の中では、USAと協調して経済的恩恵を追求しようとする国(ALCA推進派)と、USA式の自由貿易の拡大を帝国主義的と批判的に捉える国(ALCA否定派)の考え方の違いが出てきます。

ALBA爆誕:反・USA式帝国主義

そうした分裂が決定的となるのが、ALCAひいては米国の新自由主義の拡大に反対した国々による「米州ボリバル同盟(ALBA)」の結成(2004年)です。ALBA(ALBA-TCP)については別途掘り下げたいと思いますが、構成国だけ紹介すると、以下のとおりまとめられます。

ALBA-TCP加盟国(2022年4月現在)

【創設メンバー】キューバ(フィデル・カストロ)およびベネズエラ(ウゴ・チャベス)
【追加メンバー】ボリビア(2006年)、ニカラグア(2007年)、ドミニカ国(2008年)、アンティグア・バーブーダ(2009年)、セントビンセント及びグレナディーン諸島(2009年)、セントルシア(2013年)、セントクリストファー・ネービス(2014年)、グレナダ(2014年)
(ホンジュラス(2008年-09年)、エクアドル(2009-18年)は一時加盟し脱退。)
【特別招待国】シリア(2010)、ハイチ(2012)、スリナム(2012)
出典:ALBA-TPC公式ホームページ

ALCA交渉は、1994年12月にアメリカ・マイアミで開催された米州サミット(首脳会談)から始まり、その後チリ・サンティアゴ(1998年)、カナダ・ケベック(2001年)、メキシコ・モンテレイ(2004年)のサミットを経て、対抗組織としてのALBA結成を受けたアルゼンチン・マル・デル・プラタ(2005年)でのサミットを最後に、暗礁に乗り上げます

米国との自由貿易を志向する側の国は別途自由貿易協定(FTA/TLC)を米国と結んでいくこととなります。

ラ米における米国との自由貿易協定締結状況(2022年4月現在)

・メキシコ:NAFTA/TLCAN
・ドミニカ(共)、コスタリカ、エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、ニカラグア:DT-CAFTA
・チリ、ペルー、コロンビア、パナマ:個別FTA/TLC

大きく2傾向に分かれるラ米

結論としては、ALCA交渉やALBA結成を経験したラテンアメリカ諸国は①北米との自由貿易を含めた開放的な経済を志向する立場(開放型)と、②北米の新自由主義を帝国主義的と批判し閉鎖していく立場(閉鎖型)との大きく2つの傾向に分かれていきます。中南米政治においては、前者(①)を「右派」、後者(②)を「左派」として(あるいは右派・左派の構成要素として)論じられたりします。

太平洋同盟は開放型ALBAは閉鎖型のわかりやすい例で、メルコスールは、中道的ではあるも、どちらかと言えば閉鎖型と認識されることが多いです。
なお、同様に、プロスール(PROSUR)は開放型ウナスール(UNASUR)は閉鎖型の傾向を持っていると言えます。

太平洋同盟の起源②〜CANの危機と開放推進の旗手ペルー〜

前述の大きな流れの中で、「アンデス共同体(CAN)」という枠組みの中でも、メンバー国の間の立場の違いが出てきます。

CANの危機:止められないベネズエラさん

CAN(Comunidad Andina)は1969年設立のペルー、コロンビア、エクアドル、ボリビアをメンバー国とする経済統合グループで、ヒトの移動の自由(アンデスパスポートなど)や域内関税撤廃などの域内自由化、対外共通関税の設定などを行なっています。

CAN(アンデス共同体)加盟国(2022年4月現在)

【創設メンバー】ペルー、コロンビア、エクアドル、ボリビア、(チリ(1969年-76年))
【追加メンバー】(ベネズエラ(1973年-06年))
出典:CAN公式HP

2005年前後のCANは、チャベス政権下のベネズエラ、同じく閉鎖志向のエクアドル、ボリビアによる影響を受け、開放志向のペルー、コロンビアにとっての危機を迎えます。

開放路線のペルーがリーダーシップ発揮!

こうした中で、ペルー(アラン・ガルシア大統領(当時))は、米国との自由貿易協定の締結を進めつつ、急成長しつつあるアジアに目を向け、太平洋に面するラテンアメリカ諸国に対し「環太平洋・ラテンアメリカ(Arco del Pacifico latinoamericano)」の形成を呼びかけます

これに応えたコロンビアの主催で、2007年1月、コロンビア(主催)、チリ、エクアドル、エル・サルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、メキシコ、パナマ、ペルーの参加を得て、カリ会議が開催され、新しい地域統合グループとして「環太平洋・ラテンアメリカ・フォーラム(Foro del Arco del Pacifico Latinoamericano))」が形成されます。この集まりが、太平洋同盟の前身であると考えられています。

このグループは、当初ALBA諸国(閉鎖型の先鋭)も含んで形成されますが、ペルーをはじめとした開放型の国は米国、EU、アジアとの経済関係においてより深い発展を追求していきます。

つまり、より考え方の近い開放型の国々だけのグループを創る必要性を感じるようになったのです。

そして太平洋同盟結成へ

そして、2010年10月、ペルーのアラン・ガルシア大統領(当時)は、チリ、コロンビア、メキシコに対し、より深い経済統合グループの結成を呼びかけ2011年4月、リマ市において、太平洋同盟の設立が宣言されます。

2011年5月には、ペルー、コロンビア、チリの共通の株式市場として「ラテンアメリカ統合市場( Mercado Integrado Latinoamericano (MILA))が発足します(メキシコは後に参加)。

2012年6月、4カ国の枠組条約への署名により、太平洋同盟が正式に発足します。

太平洋同盟の成果 早くも実行力高そう

太平洋同盟は、前述のような経緯から、中南米の開放型の先頭を行く国々のグループであることが伺えます。全ての加盟国が米国・EUと自由貿易協定を結んでいて、コロンビアを除く全ての国がAPECにも加盟しています(コロンビアもペルーに促されたりしつつ参加したい気持ちはあり。)。

以下では、太平洋同盟の10年間の主な成果を簡単に紹介したいと思います(資料:太平洋同盟公式HP、関連論文・記事)。自由化や開放路線がイデオロギーや政治によって阻害されることが少ないため、経済統合グループとしての成果も早期に出していると評価できるように思います。

【10周年を迎える太平洋同盟の主な成果】
・域内自由化(90%の関税撤廃とその全ての加盟国での発効、基準・証明の統一化などの障壁撤廃策)
・輸出・観光・投資誘致促進策(9か国への支部設置、ビジネス・観光大会開催など)
・起業・イノベーション支援(フォーラム開催、起業支援基金創設など)
・株式市場統合(前述のMILA)
・デジタル統合(「地域デジタル市場」始動)
・ヒトの移動の自由化(2012年からの観光ビザ・ビジネス短期ビザ廃止、労働市場流動化策)
・学生・専門スキル支援(奨学金、技術支援制度)
・企業間統合・協賛(企業審議会(Consejo Empresarial)、オブザーバー国や国際機関との協力)
・政府間協調(首脳級・閣僚級会合、議員交流など)
・長期ビジョン策定(Vision Estrategica 2030)

まとめ

本記事では、太平洋同盟を知る上で、その概要と起源、成果について見て行きました。

太平洋同盟は、米国との自由貿易をめぐる立場の違い、既存のグループの限界、特定の国・人のリーダーシップなどが絡み合って生まれたグループです。特定の「敵」に対抗して結成されたという側面よりも、経済的な自由・開放、アジア太平洋との連携をラ米の中で進歩的に進めるためのグループという側面の方が強く、すなわちラ米の他の統合グループと比較すると政治色がそこまで強くないと言えます。この点は、グループの活動や存続にとって非常にポジティブな性質です。

また、太平洋同盟の自由化・経済活動支援の立場は明確であるので、その分成果・進展もスピーディーで着実です。そこまで派手さはないけれど、プラグマティックに仕事を進めるイメージです。この点は、野心的な目標を立てつつ、そこに向けてなかなか進まないメルコスールとよく比較されます。

太平洋同盟の今後を考えると、できるだけ政治化させず、経済的メリットを淡々と追求していくことが、グループの統合や加盟国の企業活動にとって良いことであろうと考えます。

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