【メルコスール(MERCOSUR)】背景や結成の過程は?

地域統合

本記事では、メルコスール(MERCOSUR)の背景や結成の過程について、紹介します。

メルコスールの起源は、アルゼンチンとブラジルの協力関係の進展と地域の自由貿易の牽引であったと言えます。

メルコスール(MERCOSUR)の基本情報

メルコスール(El Mercado Común del Sur(MERCOSUR))は、1991年のアスンシオン条約により始まり、その条約はアルゼンチン、ブラジル、ウルグアイ、パラグアイにより署名されました。

現在は、加盟国(Estados Partes)としてベネズエラ、関係国(Países Asociados)としてボリビア、チリ、コロンビア、ペルー、エクアドル、ガイアナ、スリナムが加わっています。その中で、ベネズエラは全ての権利と義務が停止中、ボリビアは加盟国となるための議定書が署名済みで、各国の国内手続き待ち状態です(メルコスール公式HP)。

メルコスール加盟国

加盟国:アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ、ベネズエラ*
関係国:ボリビア**、チリ、コロンビア、エクアドル、ガイアナ、ペルー、スリナム
*ベネズエラは、ウシュアイア議定書第5条2パラに従い、メルコスールの加盟国としてのすべての権利および義務が停止された状態。
**ボリビアは、2015年にそのメルコスールへの加入のための議定書がすべての加盟国により署名され、現在は各加盟国の国会の承認待ちの状態。

(引用)メルコスール公式HP

なお、ベネズエラは、『メルコスール(とボリビアおよびチリ)における民主主義の誓約に関する議定書(ウシュアイア議定書)』第4条の”caso de ruptura del orden democrático”(民主主義的秩序が破られたケース)に当たるとして、同議定書第5条に基づき、資格停止となっています。

ボリビアもずっと正式加入ができていない状況なので、メルコスールは基本的にアルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイの4カ国で構成されていると考えて良いと言えます。

メルコスールの起源:アルゼンチンとブラジルの関係

メルコスールの歴史はアルゼンチンとブラジルの接近のプロセスであるということができます。

アルゼンチンとブラジル:植民地時代からのライバル関係

アルゼンチンとブラジルの関係は、スペイン人(後のアルゼンチン領)とポルトガル人(後のブラジル領)の間の領土紛争という、植民地時代まで遡ることができます。このライバル関係は両国が独立した後も残り、その後数十年間、両国の二国間関係のベースとなりました。

実際、第二次世界大戦ではブラジルは連合国(Aliados)側に付いた一方、アルゼンチンは終盤まで中立を維持し、戦後も、特に60年代中期の両国の軍事主義・権威主義のはじまり以降、政治的不和や領土拡大による衝突を見せていました(浜口、1998)。

輸入代替工業化(ISI)モデルと、自由貿易への転換

経済的には、両国を含めたラテン・アメリカは、1940年代終わりまで長年、ヨーロッパ諸国および米国への一次産品の輸出とそれらの国からの工業品の輸入をベースとしていました。その後、40年代終わりに「輸入代替工業化(ISI)」モデルを導入し、一次産品の輸入を促進し、工業品の輸出を促進する政策により、そうした状況を逆転させようとしました。

ラテンアメリカにおけるISIモデルの導入については、以下の記事で別途扱っております。

その後、ラテンアメリカ諸国は、一部保護主義的なISIモデルから、より自由な貿易を模索していくことになります。

1960年に、アルゼンチンとブラジルを含む6カ国で、「ラテンアメリカ自由貿易連合(Asociación Latinoamericana de Libre Comercio (ALALC)」の創設という『統合に向けた最初の転換(primer giro pro-integración)』(アルバレス、2011:10)が起こりました。アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ、チリ、メキシコの6か国は、「モンテビデオ条約(Tratado de Montevideo)」により、今後12年間(1972年まで)に自由貿易圏を創設する責任を加盟国に課しました。しかしながら、そうした目標は、外との関係よりも内政に重きを置いた軍事政権が政治的な努力を行わなかったことなどが原因となり、1968年のカラカス議定書で延長した1980年までの期間にも、達成されませんでした。

アルゼンチンとブラジル:ライバル関係から協力関係へ

統合の機運が高まっていく中で、1980年ごろからアルゼンチンとブラジルのライバル関係も変わっていきます

1979年にアルゼンチン、ブラジル、パラグアイにより署名された「コーパス・イタイプ合意(Acuerdo Corpus-Itaipú)」は、1793年から続いていたパラナ川の水力資源の利用権に関する対立を解決しました。
また、1980年の「マヨ合意(Acuerdos de Mayo)」により、アルゼンチンとブラジル間で原子力の平和的利用が合意されました。
さらに、同じく1980年に、「ラテンアメリカ自由貿易連合(ALALC)」を改変し「ラテンアメリカ統合連合(Asociación Latinoamericana de Integración(ALADI))」を創ることに合意する「モンテビデオ条約」にすべての加盟国(当時は11か国)が署名しました。

新しいALADIの持ち味は、①ラテンアメリカ諸国へ開放的であること(キューバ(1998年)、パナマ(2009年)、ニカラグア(2011年)の加盟が承認されています。)と、②サブリージョナリズム*に寛容であることが挙げられます。
*ここでの「サブリージョナリズム(subregionalismo)」は、メルコスール、太平洋同盟などの中南米地域の中での特定国間のグループを指す意味になります。ALADIは、ラテンアメリカ諸国を中南米地域として捉えつつ(リージョナリズム)、メルコスールなどの他の枠組みが共存することも排除しなかった、という趣旨です。

また、同じく1980年に、“A new inter-American policy for the eighties”の中で米国は、アルゼンチンとブラジルの関係性向上のため支援する旨を表明しました(アルバレス、2011)。

80年代半ばまでには、ALADIは行き詰まり、その主要な目的は失敗であったと考えられるようになってしまった一方、アルゼンチンとブラジルの二国間関係は、同じ時期に、ライバル関係が緩和し、友好関係へと変わって行き始めたと言えます。この背景には、アルゼンチンが1983年に、ブラジルが1985年に、それぞれ長いミリタリズムの後に民主主義に復帰したことがあったとも言えます(Jaguaribe, 1982; 浜口, 1998)。

メルコスールの基本理念の形成

1985年のイグアスにおける首脳会談は、両国の経済統合について意見交換を行った初めての二国間会談であり、文民の大統領間の初の対談でした。

1年後の1986年、両国は、「統合・経済協力プログラム(Programa de Integración y Cooperación Económica (PICE))」を発表しました。そこで発表された「漸進性(gradualidad)・柔軟性(flexibilidad)・平等(equilibrio)」、そして「政治・経済の進歩的な調和」の原則は、のちにメルコスールの設立条約である「アスンシオン条約」に含まれることになります(Ferrer, 1996; 浜口, 1998)。

PICEの目的は、重要な産業セクターにおける交渉が進むよう合意するという、産業セクターの統合でした(Ferrer, 1996; Alvarez, 2011)。この通商戦略は、1988年にPICEが「統合・協力・開発条約(Tratado de Integración, Cooperación y Desarrollo (TICD)」に取って代われたときに変わりました。

両政府は、TICDにおいて、関税障壁および非関税障壁全般を徐々に下げていくことに合意し、両国間で自由貿易圏の創設(10年以内)に初めて合意しました(Hamaguchi, 1998; Alvarez, 2011)。

TICDは、その10年の期限を少なくとも4年延期することとした「経済補完条約No.14 (Acuerdo de Complementación Económica No.14 (ACE14)」に取って代わられました。後の「アスンシオン条約」(メルコスールの創設条約)の基本理念はこの「ACE14」に具体的に現れていたと考えられ、したがって「ACE14」は「アスンシオン条約」の核を成すものであったと考えられています。

また、このころには米国による新たな協力があったとも言えます(Escudero(1992))。それは具合的には、1990年6月に提唱された「アメリカのためのイニシアティブ(la Iniciativa para las Américas (IPA))」であり、それはALADIの枠組みで1990年12月に署名された「ACE14」の形成を助けました。

ウルグアイとパラグアイの参画

ウルグアイとパラグアイが、上記の二大国の統合の動きに参画したことは不思議なことではありません。

ウルグアイとパラグアイは、ボリビアも同じくですが、地理的にアルゼンチンとブラジルに挟まれる場所に位置しており、常にそれらの国と緊密な経済的関係を維持してきました。

また、双方とも、産業の空洞化のリスクに対処するため、その生産システムの近代化と国際化を進める必要がありました(Escudero, 1992)。

さらに、アルゼンチンとブラジルにとっても、両国が進める経済圏の均衡と安定、そして影響力の強化のため、ウルグアイとパラグアイを参画させることはメリットがあったと考えることができるでしょう(Hamaguchi, 1998)。

メルコスールの結成

ウルグアイとパラグアイは、アルゼンチンとブラジルの統合の動きに参加し、それら4か国はメルコスールの設立条約となる「アスンシオン条約(Tratado de Asunción)」に署名しました(1991年3月)。

1994年には、 「アスンシオン条約」を補完する形でメルコスールの機構を制定する「オウロプレト議定書(Protocolo de Ouro Preto)」が発表され、翌1995年元旦に、メルコスールは関税同盟として正式に発足しました。

2012年6月、常に反対していたパラグアイが欠席していた(資格停止中)ことで、ベネズエラが正式に加入しました。

まとめ

本記事では、メルコスール結成の歴史を見ていきました。

その背景には、植民地時代からライバル関係にあったアルゼンチンとブラジルが、1980年代以降協力関係を進展させ、自由貿易圏の創設をリードしていったことがありました。そこに、両国と常に緊密な経済関係を維持していたウルグアイとパラグアイが参画した流れがあったと言えます。

主な参考文献

組織

  • メルコスール公式HP(基本情報、データベース、設立30周年の成果・外相メッセージ等)
  • ALADI公式HP
  • 米州開発銀行(IDB)公式HP
  • 加盟国政府系HP(ブラジル開発産業貿易省公式HP、アルゼンチン通産省、パラグアイ産業貿易省((2013). Análisis de la relación comercial Paraguay – Brasil.)、ウルグアイ投資輸出促進庁((2013) Informe de Comercio Anual)、ベネズエラ大統領府HP
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