「対外共通関税(Arancel Externo Común(AEC))」の設定は、「域内貿易の自由化」とともに「関税同盟」結成の必須条件のひとつです。
しかしながら、メルコスールは、結成30年以上が経った今も、完全なAECの設定が達成できているとは言えません。AEC自体は存在するものの、例外だらけで、第三国に対する「共通」の関税として機能するには、まだ道半ばであると言えます。
本記事では、メルコスールのAEC設定の進展や現状、問題点をみていきたいと思います。
対外共通関税(AEC)とは?
AECは、一つの経済統合グループが第三国(非加盟国)に対し適用する共通の関税で、関税同盟の重要な要素の一つです。
メルコスール設立条約(アスンシオン条約)でもAECを設定することが目標の一つとして掲げられています。
なお、メルコスールの目標は、以下の記事でご確認いただくことが可能です。
メルコスールは、以下のメルコスール公式HPにもあるように、1994年から、メルコスール単一品目表(Nomenclatura Común del MERCOSUR (NCM))に基づく、関税品目毎の関税率から成るAECを有しています。
問題となるのは、各国それぞれが独自にAECに拘束されない例外品目を維持し続けていることになります。
グループ結成後具体的な取組み方について話し合われたラス・レニャス会議(1992年)から現在まで、AECの設定(例外の撤廃)に取り組んできていますが、抜本的な進展は得られていないと言えます。
AECの設定は、それぞれの加盟国が産業ごとに保護したい、またはよりオープンにしたいとの異なる意向を持つ中で、それらを一致させた共通の関税政策を形成しなければならないとの点で、難易度が高い目標になっており、実際、その交渉過程を見ると、メルコスールの交渉の中で最も難航しているものの一つと言えます。
対外共通関税をめぐるメルコスールの交渉過程
対外共通関税を含めたメルコスールの交渉は、以下の記事で見たものから始まります。つまり、ラス・レニャス会議におけるアスンシオン条約実現のためのクロノロジーの策定と、その計画が予定通り実現しなかったり、期限が延期されていく流れです。
AECの例外
2000年、「単一市場グループ決議(Grupo Mercado Común(GMC))No.69/00」にて、メルコスール域内のモノの貯蓄と流通の確保の必要性が認められました。これは、メルコスールのAECの関税率よりも低い関税率を適用したい(より多く輸入し、流通させたい)品目のある加盟国の意向を受けたものになると言えます。
こうした流れを受け、2010年から、各加盟国は、「メルコスール通商委員会(Comisión de Comercio del MERCOSUR (CCM)」の承認を得ることで、20関税品目までAECの関税率より低い税率を適用することが可能となりました(第18経済補完条約第69追加議定書)。そこでは、個別の税率は2%以上ではならないとされたものの、例外扱いとする品目については0%まで下げることをCCMは承認できるとされました。
なお、メルコスール加盟国がAECの例外とする品目はLista Nacionales de Excepción al AECとして時限的に認められていました。
2010年末、「関税同盟強化計画(Programa de Consolidación del AEC)」(Decisión CMC No.56/10)が合意され、各国のAECの例外を認める期限が延長され、例外品目数と期限は以下の通りとされました(INTAL, 2013)。
なお、お馴染みの方式で、上記の期限は延期されていき、最新の2021年の決定(Decisión CMC No.11/21)では、以下の品目数および期限を定めています。
AECの税率を超える関税率
また、2011年末に「国際経済情勢に起因する貿易不均衡を理由とした関税分野への一時的アクション(Acciones puntuales en el ámbito arancelario por razones de desequilibrios comerciales derivados de la coyuntura económica internacional)」(Decisión CMC Nº 39/11)に合意がされ、加盟国が一時的に(2014年12月31日まで)、非加盟国からの輸入品に対し、100品目(NCMコード)まで、AECの税率を超える(AECよりも高い)関税率を(WTOに認められたレベルの範囲内で)課すことができるものと認められました。
このAECの税率を超える関税率はCMC決定の文言では「alícuotas del impuesto de importación por encima del Arancel Externo Común (AEC) para las importaciones originarias de extrazona」と呼ばれています。
AECより高い関税率の適用は、2012年の決定(Decisión CMC No.25/12)にて、200品目(NCMコード)までに拡大されました。
期限は例によって徐々に延長され、2015年の決定(Decisión CMC No.27/15)では、2021年12月31日までに延期されました(適用範囲は100品目)。
例外多数のAEC
結論として、メルコスールのAECには各国毎に定める多数の例外があり、そうした例外の撤廃はこの30年間ほぼ進んでいないということができます。
これだけ例外があると、「単一」の対外関税としては不完全であり、そのためメルコスールは関税同盟として不完全であると考えます。
一方で、例外多数でも、全ての加盟国が一応なりとも合意できる共通のルールが形成できていること自体は、分裂して機能停止になることに比べれば、非常に良いことと言えます。
上記でみたものに加え、2010年8月の「メルコスール関税コード(Código Aduanero del MERCOUR)」(Decisión CMC Nº 27/10)、「メルコスール関税単一文書(Documento Único Aduanero del MERCOSUR」(Decisión de Nº 17/10)への合意は、統合にとってポジティブなものであると考えます。
メルコスールの二重課税問題
AECが例外多数で単一的な運用になっていないことで生じる問題には、「二重課税」の問題があります。これは、メルコスールの加盟国に輸入された商品が別の加盟国に輸入される際に二重に関税を課されるというもので、モノの流通や投資の誘致に悪影響があります。
この問題には、2004年の、将来的(2008年まで)に、「関税単一コード(Código Aduanero Común)」の発効などの条件をクリアし、非加盟国の輸入品の域内の自由な移動を可能とすることを定めた決定(Decisión CMC 54/04)や、AEC二重課税廃止に向けた3つの段階を定めた決定(Decisión CMC 10/10)に合意がされるなど、取り組まれてきました。
一方で、二重課税問題が解消される、すなわち一度域内に入ったあとは無関税で加盟国間のモノの流通が可能になる場合、それはそれで未だ色濃く現存する加盟国の保護主義との関係で問題となり得るように思います。
つまり、例えば、特定の商品に課す輸入関税を、A国はAEC(例えば15%)をそのまま適用し、B国はAECの例外適用で関税5%としている場合、B国経由でA国に輸入することで10%分の関税を浮かせることができるようになります。これはA国からすれば本意ではない、ということになり得ます。
このように、AECの例外多数で域内貿易の自由化を進めることは複雑で、関税同盟として本来あるべき姿は、AECの単一化(例外撤廃)と域内貿易の自由化(二重課税撤廃など)の両方を確保することであるといえます。
高い税率のAEC
本項冒頭でも述べましたとおり、メルコスールのAECの例外適用は、AECよりも低い関税率を適用したいとの各国の意向を受けて始まっていきました。
そうすると、AECの例外を無くしていくためには、AECをより低い税率にしていくことも必要であるように思われます。
これに関し、2021年10月、アルゼンチンとブラジルの外相が、メルコスールのAECを10%削減することで合意しました(2021年10月9日付エル・パイス紙(以下))。メルコスールのAECは現在平均13%であり、今後パラグアイ、ウルグアイの承認を得て、メルコスールとして実効に移すとされています。
同紙では、自由貿易を推進したいウルグアイ、パラグアイにとってメルコスールが非加盟国との通商交渉の足枷になっていること、そうした声を受けての合意であることが述べられており、今回合意された10%は、AECを大きく引き下げたいブラジルと、そうでないアルゼンチンの妥協点であったことが紹介されています。
同紙では、今回の合意は、結成以降停滞したメルコスール交渉の息を吹き返させるものとの期待が述べられています。
まとめ
本記事ではメルコスールの対外共通関税(AEC)をめぐる交渉の進展具合、問題点についてみていきました。
メルコスールのAECの例外は結成30年以上が経った今も残り続けており、「単一」な対外関税と呼ぶには不完全なものとなっています。したがって、メルコスールは不完全な関税同盟であり、同グループの目標である単一市場・関税同盟の結成は、道半ばであるといえます。
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