【メルコスール】域内の貿易救済措置(アンチダンピング措置など)の影響や実績は?

地域統合

1991年のアスンシオン条約から30年以上を迎えるメルコスールですが、その条約で掲げられた目標である単一市場・関税同盟の結成は、まだ実現できたとは言えません

その理由として、域内の貿易自由化と対外共通関税(AEC)の設定が完全にできているとは言えない状況が挙げられます。

本記事では、自由化の阻害要因の一つとして、メルコスール域内の貿易救済措置(Medidas de defensa comercial)の適用状況や、その影響はどうなっているかについて、見て行きたいと思います。

なお、主要な阻害要因である自動車や砂糖などの関税撤廃の例外、そしてアルゼンチンのLNAをはじめとした非関税障壁(BNAまたはRNA)については、以下の記事にてご紹介しています。

それでは見て行きましょう。

貿易救済措置(Medidas de defensa comercial)とは

貿易救済措置(Medidas de defensa comercial)は、不公正に安価な輸入商品(ダンピングされた商品)により損害を受けた自国産業の救済(アンチダンピング措置)など、一定の状況下で特定の産品を保護するための措置であり、こうした措置はWTOでも認められています。

もちろん日本の経産省も、電話やメールで相談窓口を設けるなどして、貿易救済措置を適用できる体制を取っています。

WTOにおいて想定されている貿易救済措置は、以下の3つの種類に分かれます。正確な定義等は経産省のHPにも掲載されています。

アンチダンピング措置(Medidas de Antidumping)
不当に安価な輸出品(ダンピング)に対抗する(アンチ)措置。「ダンピング」は、国際貿易においては、特定の企業が自国マーケットの価格設定よりも安く外国に輸出する場合を想定します。

相殺関税措置(Derechos Compensatorios)
補助金を受けて競争力を得た輸出品が輸入国の国内産業に損害を与える場合に、その補助金の影響を相殺する関税措置。

セーフガード措置(Salvaguardias)
特定産品の輸出の拡大が輸入国の産業に重大な損害を与える場合、かかる産業を保護する目的で一時的に発動する輸入制限措置。

メルコスールにおける貿易救済措置の位置付けは?

メルコスールにおいて貿易救済に関する政策の形成を担当するのは「メルコスール通商委員会(Comisión de Comercio del MERCOSUR (CCM))」の下部組織である「貿易救済・セーフガード委員会(Comité de Defensa Comercial y Salvaguardias(CDCS))」です。

なお、メルコスールの組織図は、以下の公式HPから確認が可能です。

Organigrama - MERCOSUR
El #Mercosur cuenta con tres órganos decisorios. Consejo del Mercado Común (CMC), Grupo Mercado Común (GMC) y la Comisión de Comercio del MERCOSUR (CCM).

GATT第24条8パラa)に基づけば、域内貿易における貿易救済措置の適用は原則認められていませんが、メルコスールでは同措置は有効となっており(パラグアイ政府, 2015)、それぞれの加盟国がWTOの貿易救済規則を落とし込んだ国内法に基づき対加盟国および対非加盟国の双方に貿易救済措置を適用してきました。

統合体としてのメルコスールは、WTOの貿易救済規則を実行するための域内共通の規則の策定に長年取り組んできましたが、2015年までに、ようやくセーフガードに関する共通規則ができたにどどまります(出典:同上)。

メルコスール域内の貿易救済措置

かつてはこうした貿易救済措置は、政府レベルおよび民間レベルで、メルコスール加盟国間の衝突を生じさせていました。しかしながら、2012年頃までにはそうした措置が適用される品目数や量が削減されたことで、目立った衝突はなくなりました(INTAL, 2012))。

アルゼンチンが対ブラジル輸入品で貿易救済措置が適用されたものの割合は、2008年は2.7%でしたが、2012年前期には0.3%にまで減少しており、同年の他の加盟国(ウルグアイおよびパラグアイ)の輸出品にはほぼ適用されていない(0.0%)状況となっています。ブラジルに関しては、2012年までの数年間、メルコスール加盟国に対しそうした貿易救済措置はとっておらず、そうした措置を適用したのは中国などの域外国からの輸出品に対してのみとなっていました(Alize MERCOSUR/MDIC (INTAL, 2012))。

ウルグアイ、パラグアイに関しては、少なくとも2015年までに、アンチダンピング措置が取られたのは(対加盟国および対非加盟国の双方を合わせ)数件(パラグアイ2件、ウルグアイ7件)で、相殺関税措置、セーフガード措置が取られたのはゼロ件となっています(パラグアイ政府, 2015)。

2012年以降も、メルコスール加盟国間の貿易救済措置が大きな問題となったような目立った動きはないようです。

メルコスール加盟国の貿易救済措置適用実績(1995-2014)

・アンチダンピング措置
アルゼンチン(316件) ブラジル(369件) パラグアイ(2件) ウルグアイ(7件)
・相殺関税措置
アルゼンチン(3件) ブラジル(10件)パラグアイ(0件) ウルグアイ(0件)
・セーフガード措置
アルゼンチン(6件) ブラジル(4件) パラグアイ(0件) ウルグアイ(0件)

出典:パラグアイ政府, 2015(WTO統計に基づく)

まとめ

貿易救済措置も、メルコスールの域内貿易自由化を阻害する要因の一つとして挙げられますが、関税撤廃の例外や非関税障壁などの他の要因と比べると、その影響は限定的であると考えられます。

メルコスール加盟国の貿易救済措置の実績を見ると、対非加盟国を含め、多くの措置を適用してきたのはブラジルとアルゼンチンで、その措置の多くはアンチダンピング措置になっています。

ウルグアイ、パラグアイの実績は少なく、特にウルグアイに関しては非加盟国に対する措置も多くなっており、域内自由化への影響はかなり限定的であると言えます。

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