ラテン・アメリカおよびカリブ諸国で、ホンジュラス、チリに続き、コロンビアで初の左派政権発足と、同地域での「左派ブーム」がきています。
中南米カリブ諸国の政治における「左派(izquierda)」は、分配重視など「大きな政府」を志向する国内政策と、米国に代表される西側の価値観に従属しない対外政策を取ります。
コロンブスのアメリカ大陸上陸以来の300年のスペイン支配、その後のイギリス→アメリカ合衆国による200年の政治経済的支配の中にあって、そうした支配から脱却し、ラテンアメリカとして真に独立した尊厳を獲得していきたいという想いが、この地域の左派勢力には大なり小なり存在します。これを最も気合の入った形で現在進行形で実現している国はキューバであり、そこまでいかないそれ以外の大部分の国でも、それは時に強い反米政策や、旧宗主国スペインに対する歴史問題の提起などにわかりやすく見ることができます(なお、こうした政策が国民の生活にとって良いものかどうかは別問題です。)。そしてこうしたビジョン(≒イデオロギー)は、中南米カリブの地域統合の進展にも大きく影響します。
したがって、中南米カリブにおける左傾化は、その国の国内行政を超えて、国際政治経済や地域統合の観点から注目すべきものになっています。
中南米カリブ諸国の政治傾向マップ(2022年6月時点)
コロンビアのグスタボ・ペドロ大統領候補の当選(2022年6月当選。任期は同年8月からスタート。)までを反映した中南米カリブ諸国(旧宗主国をスペインとする国に限る。)の政治傾向マップは以下のとおりです。
国の数だけをみても左派政権の国がかなり多いことがわかり、メキシコ、アルゼンチンなどの大国や、伝統的に親米・自由貿易志向の性格が強いペルー、コロンビア、チリなどの国も左派政権となっています。
2023年から真の左派ブーム到来か!?
右派傾向の国リストの中で唯一大国といえるブラジルは、現ボルソナロ大統領も極端すぎて親米の枠にもはまっておりませんが、2022年10月には大統領選挙を控えており、左派のルラ候補(元大統領)が最も高い支持率を維持しています。
同選挙でブラジルでも左派政権が樹立すれば、2023年からが「真の左派ブーム」が到来し、2008年以来のラテン・アメリカおよびカリブの統合ムーブメントが見られるかもしれません。
そうなると、エクアドルのギジェルモ・ラソ大統領のように、左派勢力に恨まれている指導者もかなり肩身が狭くなってきて、すでに噴出している国内問題をうまくまとめられなければ、タダではすまないかもしれません。
ラテンアメリカおよびカリブの地域統合への影響に注目
再び大きな左派ブームが来れば、地域を広く包摂する野心的な地域統合の動きがまた息を吹き返すかもしれません。ルラ・ブラジル元大統領が提唱するような地域の単一通貨などの統合ビジョンはロマンに溢れており、それ自体のハードルの高さや政権交代後に持続しない十分な可能性を加味してもなお、注目に値するでしょう。
左派系のUNASUR(ウナスール)、右派系のPROSUR(プロスール)がそれぞれ「死に体」となっているように、この地域の統合が持つ「弱み」、すなわち政治傾向(右・左)の違いを超えて生き残る「しなやか」とも言うべき強靭さをこれまでの野心的統合体が持たなかったことを、現在の指導者たちは認識しているであろうと考えられます。もし今後、かつてのように野心的な地域統合が動き出す際は、そうした過去の経験から学び、これを乗り越える試みがされることを期待したいです。
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