【メルコスール】結成30年:輸入の域内依存度の変化は?対外共通関税の効果

地域統合

メルコスールは、1991年のアスンシオン条約から30年以上を迎えています。

これまで、域内自由化や対外共通関税(AEC)の設定をめぐる交渉は、なかなか思うように進んでいない一方、少しずつ前には進んでいる様子も見受けられます。

本記事では、結成30年以上を迎えたメルコスールの実質的成果を見る上で、AECの効果(輸入における域内の重要性が増加しているか。)をみていきたいと思います。

結論としては、1992年の対外共通関税設定以降、域外からの輸入に対する域内からの輸入が増大しているとはいえず、むしろ近年は中国の台頭により減退傾向です。

なお、AECの整備を含めた制度上の成果は、以下の記事でまとめています。

AECの効果:域内輸入依存度の推移は?

対外共通関税(Arancel Externo Común(AEC))は、非加盟国に対する共通の関税政策を導入し、非加盟国からの輸入を抑制しつつ域内貿易を促進するものです。

AECの設定により、理論上は、域内の輸入の割合が増加することが想像されます。

それでは、1992年のAEC設定後の域内輸入の全体に占める割合は増えているのでしょうか

以下のグラフは、1992年〜2013年*のメルコスールの域内輸入量と域内外全体の輸入量の推移を示しています。なお、このデータにベネズエラ(2012年から加盟国)は便宜上含みません。
*メルコスールの統計は、かつてはINTAL(IDB)からのアクセスができましたが、今ではページの様子が変わって、統計へのアクセスの方法が変わっているようです。一方で、メルコスールのホームページが過去10年で進化していて、SECEMというシステムから非常にみやすい統計にアクセスができるようになっています。
一方で、SECEMでアクセスできるのは2000年以降の統計であり、グラフ上二つの数字を混ぜるのもいまいちなので、INTALベースの統計に、近年のトレンドを補足するかたちを取って行っています。

【メルコスールの輸入(域内および全体)】

出典:INTALの統計をもとに作成

このグラフから、2002年頃からの輸入全体の伸びに対し、域内の輸入量の伸びが弱いことがわかります。

全体の輸入量に占める域内輸入量(域内輸入依存度)を以下の表でさらに具体的にみていくと、域内輸入依存度は2002年(21.4%)をピークとし、2010年代には15%前後に低下傾向で推移してきました。直近の数年は13%前後となっています。

【メルコスールの域内輸入依存度】

メルコスール全輸入額(100万USD)メルコスール域内輸入額(100万USD)域内輸入額/全輸入額(%)
199236.6196.43817,6%
199347.8239.39619,6%
199459.39411.61719,6%
199575.63214.16018,7%
199683.21717.09220,5%
199798.41720.54620,9%
199895.39320.43721,4%
199979.79615.41819,3%
200086.53317.72920,5%
200180.94115.44619,1%
200259.69510.37317,4%
200368.70913.29219,3%
200495.14017.91118,8%
2005113.84021.65419,0%
2006140.58326.10418,6%
2007182.82733.42818,3%
2008248.59042.97517,3%
2009180.02631.89417,7%
2010256.67643.31416,9%
2011323.07852.26016,2%
2012314.02647.58115,2%
2013336.61249.39214,7%
2016209.59933.64316.1%
2019252.34932.72713.0%
2021300.71240.59113.5%
出典:INTALのデータを元に作成(1992-2013)、MERCOSUR(SECEM)を元に作成(2016, 2019, 2021)

この推移を見ると、1992年のAEC設定後、域内輸入依存度は増加しているとはいえず、むしろこの10年は減少傾向です。

この結果は、メルコスール加盟国が米国や中国をはじめとした域外国からの輸入品に大部分を依存していることを示しています。こうした状況が、AECの一律的な適用をさらに難しくしているかもしれません。

この結果は、以下の記事でみた域内輸出依存度と同じ傾向になります。

各加盟国の輸入先の変化

各加盟国の輸入先(2012年、2019年)は、以下のとおりとなっています。

【メルコスール加盟国の輸入先(100万USD):2012年データ】

 1234Total
ブラジル中国 (34.149) (15.3%)米国 (32.587)
(14.6%)
アルゼンチン (16.517) (7.4%)ドイツ (9.151) (4.1%)223,200 (100%)
アルゼンチンブラジル (17.830) (27.2%)米国 (10.226) (15.6%)中国 (7.801) (11.9%)ドイツ (2950) (4.5%)65,550 (100%)
ウルグアイ中国 (2.011) (16.4%)ブラジル (1.827) (14.9%)アルゼンチン (1.790) (14.6%)米国 (1.116) (9.1%)12,260 (100%)
パラグアイブラジル (2.677) (24.2%)中国 (2.157) (19.5%)アルゼンチン (2.024) (18.3%)米国 (1.272) (11.5%)11,060 (100%)
ベネズエラ米国 (18.801) (31.7%)中国 (9.964) (16.8%)ブラジル (5.397) (9.1%)コロンビア (2.847) (4.8%)59,310 (100%)
出典: The World Factbook(CIA)を基に筆者が作成

【メルコール加盟国の輸入先(100万USD):2019年データ】

1234Total
ブラジル(2019年データ)中国 (21%)米国(18%)ドイツ(6%)アルゼンチン(6%)269,020 (100%)
アルゼンチンブラジル(21%)中国(18%)米国(14%)ドイツ(6%)66,280 (100%)
ウルグアイブラジル(25%)中国(15%)米国(11%)アルゼンチン(11%)13,310 (100%)
パラグアイブラジル(24%)米国(22%)中国(17%)アルゼンチン(10%)13,150 (100%)
ベネズエラ中国(28%)米国(22%)ブラジル(8%)スペイン(6%)18,432 (2018 est.) (100%)
出典: The World Factbook(CIA)を基に筆者が作成

このグラフから、概ね過去10年の傾向として以下のことが言えるかと思います。

・ブラジルおよびアルゼンチンのメルコスール二大国の輸入において、お互いの重要性(ブラジルにとってのアルゼンチン、アルゼンチンにとってのブラジル)が相対的に低下している。その代わり、中国などの存在感を増している域外国がある。
・一方で、ウルグアイ、パラグアイについてみると、ブラジルの輸入先としての重要性が増大している。しかしながら、アルゼンチンは低下している。
・パラグアイでは、加盟国で唯一、中国からの輸入割合が低下している。

メルコスールの輸入量にしめる9割近くはブラジル、アルゼンチンによるものであるため、その二大国のの傾向が、メルコスール全体の傾向となっていきます。

そのため、たとえパラグアイ、ウルグアイで域内輸入依存度が高まっていても、ブラジル、アルゼンチンの域内輸入依存度が低下すると、メルコスール全体の域内輸入依存度としては低下することを意味します。

今後の課題は?

もともとメルコスールは、アルゼンチンとブラジルの間の協力関係が発展してできた経済統合体です。

アルゼンチンとブラジルの二大国の貿易上の結びつき、依存度が低下している現状は、メルコスールの設立経緯や設立理念に鑑みれば、転換していきたいものです。

そのためには、両国の自動車セクターの自由化交渉の進展、例外だらけのAECの単一化など、メルコスールの目標に向けて制度的に整備できるところは多そうです。

加盟国を増やし統合体としてのパイを大きくすることも方向性の一つですが、メルコスールの持続的で根本的な発展のためには、やはりこの二大国が域内自由化とAECの単一化を主導することが重要であると考えます。

まとめ

本記事では、別途見ていったAEC(例外多数で一般化できていると言えなそう。)に基づき、メルコスールの域内輸入依存度が増大しているかどうか見ていきました。

結論としては、メルコスールの域内輸入依存度は、輸出依存度と同じく、過去20年、30年スパンの双方で増えているとは言えず、むしろ最近は中国などの台頭で減少傾向であると言えます。

メルコスールの目標に向けては、域内自由化やAECの単一化をアルゼンチン・ブラジルの二大が主導して進めていくことを期待したいです。メルコスールが単一市場・完全な関税同盟と成るための道はそれしかないと考えます。

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