メルコスールは結成30年以上が経ちますが、同グループが目標とする単一市場、完全な関税同盟が実現されたとは言えません。
というのも、メルコスールには、重要な産業を関税撤廃の例外にしているほかに、非関税障壁も残っており、域内自由貿易が実現できているとは言えないからです。
本記事では、メルコスール加盟国の取る主な非関税障壁を紹介します。また、その中でもよく議論となるアルゼンチンの「非自動輸入許可」制度(régimen de Licencia No Automática (LNA) de importación」とは何かも紹介します。
なお、関税撤廃の例外については、以下の記事で別途記載しています。
アルゼンチン:世界2位の保護主義の強さ?
現代の国際貿易では、WTOのルールのように、関税を設定することを規制するルールが複数存在し、そのため自国産業を保護するためには別の手段が取られます。つまり、関税を引き上げる代わりに、数量制限やライセンスの義務付け、技術的な条件など、関税以外の形で貿易を制限する「非関税障壁(Barreras No Arancelarias(BNA)/ Restricciones No Arancelarias (RNA))」を導入するのです。
BNAの廃止は、関税撤廃の例外の場合と同様に、メルコスールの中で様々な形で取り組まれてきた議題です。
しかしながら、今日までにBNAの廃止は実現しておらず、むしろ、メルコスール結成以降その種類や保護の強さは高まっていると言えます。
実際、「ラテンアメリカおよびカリブの統合のための研究所(Instituto para la Integración de América Latina y el Caribe(INTAL))」の”informe MERCOSUR No.17″(2013)は、関税障壁および非関税障壁の双方を考慮した貿易における各国の保護主義の強さをランキングした「グローバル・トレード・アラート(Global Trade Alert (GTA))」の研究を紹介し、そこでアルゼンチンとブラジルは対象の231の国と地域のうちそれぞれ2番目と7番目に保護主義の強い国とされました(2012)。
他の加盟国の保護主義の強さは比較的控えめとの評価(パラグアイ53位、ウルグアイ74位)されたものの、先の結果から、メルコスールは、その主要2か国の保護主義的政策の放棄にはこれまであまり貢献しなかったと言えます。特にアルゼンチンの保護主義的政策は、ラテンアメリカにおける保護主義の代名詞的な存在ともなってきました。
非関税障壁の例は?
メルコスールにおいて適用されてきたBNAは以下のような、様々な形態のものを含みます。
ー輸入量に関わるもの(輸入の禁止または事前承認の要求など)
ー価格に関わるもの(最低価格の設定、輸入品への税制面での不利な扱いなど)
ー手続きや内部規定に関するもの(税関手続きの複雑化、技術的・専門的規定など)
ー健康、環境、安全性、文化に関する保護政策
ーサービスにおける制限
引用:BID-INTAL (2002), Restricciones No Arancelarias en el Mercosur, para más informaciones
こうした保護主義的措置は、コメ、乳製品、タイヤ製品をはじめとした様々なセクターに対し、それぞれの国のやり方で、取られてきました(BID-INTAL (2002), Berlinski (2002) y INTAL (2008-2009))。
そうした中で、2010年代から最も議論を呼んでいるのは、アルゼンチンが導入する「非自動輸入許可」制度(régimen de Licencia No Automática (LNA) de importación)と、その適用の自動車取引への拡大であると言えるでしょう。
非自動輸入許可(LNA)とは?
LNA制度とは、輸入手続きを実行するために、関連の省庁に対し、輸入業者および輸入品の情報と輸入の許可申請を事前に提出させる行政手続きです。
LNA制度は、必要書類と承認に要する時間などから、モノの移動に重大な遅れを生じさせていると批判されています。
しかしながら、少なくとも2011年までにその制度が適用される品目は拡大され、もう一つの最大の加盟国、ブラジルも、2011年に、自動車セクターの貿易を抑制する同様の措置を導入しました。こうした措置は、グループの全ての加盟国の貿易に打撃を与えました。
なお、こうした非関税障壁は、メルコスール域内のみならず、域外の国からの輸入品にも適用されています。
LNA制度は、2013年1月に廃止が発表された(Resolución 11/2013)ものの、同年末に復活し、その後も非関税障壁として他国からの輸入を抑制しました。
2022年3月のアルゼンチン政府の発表によれば、LNA制度が適用されているのは輸入(品目と思われる)の28%に当たり、これはかつて60%などと言われたことを考えると、適用範囲は(一応)縮小されているとも考えられます。
しかしながら、こうした貿易抑制措置がグループ内で引き続き適用されていることは、メルコスールの設立条約で掲げられた目標からは逆行してしまっていることは明らかです。
まとめ
メルコスール域内貿易には、関税撤廃の例外に加え、引き続き非関税障壁(BNA)も残っています。
アルゼンチンとブラジルにとって重要な自動車産業にも適用されてきたLNA制度は、引き続き域内外の貿易に残存しています。こうした状況からも、域内自由化の進まない状況の一端をみることができるでしょう。
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