【メルコスール】結成以来 貿易の「質」は向上した?ようやくのちょっと朗報

地域統合

メルコスールは、1991年にアスンシオン条約にて結成されたアルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイによる経済統合グループです。

その目標は「単一市場」、「関税同盟」の結成ですが、その域内自由化および対外共通関税の例外をみていくと、結成してから30年以上がたった今も、そうした目標が達成できている状況とは言えません。

それでは、メルコスールの成果にはどのようなものがあるのでしょうか。

本記事では、メルコスールの実質的な成果の一つとして、貿易の「質」が向上したかどうかを見ていきます

結論的には、貿易の「質」は、メルコスール結成以来向上しているように見えます。域内輸出の促進や、対外共通関税の効果(域内輸入の促進)などの他の実質的成果の指標の分析においてあまりポジティブなデータが見られなかったので、嬉しい結論となりました。

貿易の「質」とは?

経済統合により期待される成果の一つは域内貿易の「質」の向上です。

この「質」の向上は、工業製品の輸出と産業内貿易が促進されることで起こります(Chudnovsky y Fanelli (2001); y Baruj, Kosacoff y Costa (2006) que cita Rueda (2008))。

言い換えると、工業製品の輸出と産業内貿易が促進されることで、付加価値の付いた工業セクターが成長し、生産者の競争力が増し、そして、加盟国の成長が実現される、と考えられています。

こうしたプロセスは、多数の先進国を含めた世界との競争の中で実現させることは難しいと考えられるため、経済統合グループの加盟国はまずグループ内でそれを実現させることを期待します。

したがって、このプロセスがメルコスール域内で起こっているかを見るには、①工業製品の域内輸出が促進されいるか(工業製品の域内輸出依存度が高まっているか)、②産業内貿易が域内においてより大きく行われているか、を調べていけば良いと言えるでしょう。

工業製品の域内輸出の推移

域内輸出依存度の大きさと変化は?

以下の表は、異なる地域統合グループの工業製品の全体にしめる域内輸出量の割合(域内輸出依存度)を、「高度技術(tecnología alta)」、「中度技術(tecnología media)」、「全てのレベル」*のそれぞれで示しています。
*カテゴリー分けは引用元のUNCTADstatの基準に基づくもの。「全てのレベル」は、労働集中型、資源集中型、低度技術(tecnología baja)、中度技術(tecnología media)、高度技術(tecnología alta)を含むもの。

【異なる統合グループの工業製品域内輸出(全てのカテゴリー)】

出典:UNCTADstatをもとに作成

【異なる統合グループの工業製品域内輸出(高度技術(tecnología alta))】

典:UNCTADstatをもとに作成

【異なる統合グループの工業製品域内輸出(中度技術(tecnología media))】

出典:UNCTADstatをもとに作成

上の表からは、次のことが言えるように思います。

まず、メルコスールの工業製品の域内輸出の全体に占める割合は概ね30%前後で推移しています。これは、メルコスールの工業製品の輸出は域内よりも域外(対非加盟国)に対しての方が活発であることを意味します。また、EU、APEC、NAFTAといった他の統合グループと単純比較すると、その割合は大きくないことがわかります。

次に、1995-2012年の期間の変化を見ると、この20年弱の期間で、メルコスールの工業製品の域内輸出量は、他の先進国グループと同じく、全てのカテゴリーで増加しています。
また、域内輸出の割合は、全てのカテゴリーでは、1997年、1998年をピーク(35.6%)にしつつ、概ね横ばい(30%前後)、自動車産業を含む「中度技術(tecnologia media)」で増加傾向「高度技術(tecnologia alta)」では減少傾向であると言えます。

各加盟国の輸出量の変化は?

次のグラフは、メルコスール加盟国ごとの工業製品の輸出量(域内および総輸出)を示しています。

【メルコスール 工業製品(全てのカテゴリー)の輸出(100万USD)】

出典:UNCTADstatをもとに作成

【メルコスール 工業製品(高度技術)の輸出(100万USD)】

出典:UNCTADstatをもとに作成

【メルコスール 工業製品(中度技術)の輸出(100万USD)】

出典:UNCTADstatをもとに作成

これらのグラフから、1995-2012年の間で、アルゼンチン、ブラジル、ウルグアイ、パラグアイのすべての加盟国において、工業製品の輸出量は域内外の双方で増加したということができます。

工業製品の域内輸出:結論は?

結論的には、メルコスールは、工業製品の域内輸出促進にとって、プラスに作用しているだろう、ということが言えます。

まず、前述のデータを含め、メルコスールの工業製品の輸出については以下のことが言えます。

・工業製品の輸出量は、全ての加盟国で増加する形で、メルコスール域内外で増加してきている。
・一方で、90年代半ば以降の工業製品の輸出の増加は、メルコスール以外の大多数の国と地域で起こっていることである。
・工業製品の輸出における域内輸出依存度(工業製品の、全ての国・地域への輸出に占める域内輸出の割合)は30%程度で、この数字は他の先進国グループと比べると少ない数字。
・工業製品の輸出における域内輸出依存度は1995-2012年の期間で、概ね横ばい傾向。カテゴリーごとに見ると、自動車を含む「中度技術」カテゴリーで増加傾向、「高度技術」カテゴリーで減少傾向。

上記を見ると、メルコスール結成以降の工業製品の域内輸出は、あまり促進されているとは言えないように思えます。
しかしながら、上記の傾向は、メルコスールの輸出全体と比較してみたとき、良いデータであるように思えます。

別記事(以下)で見たとおり、工業製品に限らないメルコスールの輸出全体を見ると、その域内輸出依存度はこれまで30%を超えることはなく、2000年代後半〜2010年代前半は15%前後で推移しています。これに対し、上で見たとおり、工業製品の場合は30%前後で推移しています。

また、1998年頃が域内輸出依存度のピークであるのは輸出全体の場合も工業製品の場合も同じですが、前者(全体)がピークから2010年代前半までに約10ポイント依存度を落としているのに対し、後者(工業製品)の減少幅は約5ポイントです。

つまり、メルコスールの工業製品の輸出は、輸出全体と比べると、その域内輸出依存度は高めであり、かつ減少幅が少ない(概ね横ばいを維持)している分野であると言えます。

したがって、メルコスールの結成が工業製品の輸出促進にプラスに作用している可能性は高く、この工業製品の輸出強化は、全ての加盟国がISI(輸入代替工業化)モデルを採用していた時代から望んでいたことです。メルコスールの大国(アルゼンチンおよびブラジル)のみならず、パラグアイのような国も、域内外で、また全てのカテゴリーで、工業製品の輸出を増加させることができていることは特筆すべきだと思います。

メルコスールの産業内貿易

産業内貿易(comercio intraindustrial)は、トヨタを輸出しつつベンツを輸入するような、同じ産業の商品・サービスの貿易です。
メルコスールの産業内貿易に関しINTALは、グルーベル=ロイド指標(Índice de Grubel y Lloyd(IGL))を用いて特定のセクターおよび期間における二国間の産業内貿易のレベルを測った研究結果を引用しつつ、同グループの加盟国の間で高いレベルの産業内貿易が行われている輸出品目があると述べています (INTAL, 2012: 42)。

その研究によれば、IGLの高いブラジルの輸出する6つの品目の36.4%は、アルゼンチン市場に対するものであり、それらの品目のアルゼンチンの輸出の44.6%はブラジルに対するものでした(2003-2011年)。これらの品目においては、ブラジルとアルゼンチンの間で高いレベルの産業内貿易が行われていると見ることが可能です。
それらの6つの品目のうち4品目は自動車産業に属するもので、その産業内貿易の大部分を構成するのはブラジル産の小型自動車とアルゼンチン産の中型自動車の貿易でした。

上記のブラジルとアルゼンチン間の貿易を除けば、メルコスールの域内貿易関係は、基本的には産業内貿易ではなく産業間貿易(interindustriales)と考えられています (Alvarez, 2011; INTAL, 2012)。

まとめ

本記事では、メルコスールの実質的成果の一側面として、グループ(=加盟国)の貿易の「質」が向上しているかを見ていきました。

結論的には、工業製品の域内輸出は、輸出全体の中では相対的に促進されている傾向が見受けられ、重要な二つの加盟国間で高いレベルの産業内貿易が行われているようでもあります。

これらにより、メルコスール結成が、貿易の「質」向上に寄与しているだろうと見ることができ、実際、この貿易の「質」の向上について、メルコスール結成30周年に寄せた外相メッセージにおいて、アルゼンチン外相がメルコスールの成果として述べてもいます。

メルコスールの実質的成果については、域内自由化の効果としての域内輸出促進、対外共通関税設定の効果としての域内輸入促進など、メインの指標において、あまり良い結果がこれまで見られなかったので、ISIモデル推進期からの念願である貿易の「質」向上で一定の成果がありそうであることは、メルコスールにとって良かったなと思います。

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