本記事では、ラテン・アメリカにおける経済統合の背景や流れを扱います。
ラテンアメリカには、「北米自由協定((英)North American Free Trade Agreement(NAFTA), (西)Tratado de Libre Comercio de América del Norte(TLCAN))」, 「メルコスール((西)Mercado Común del Sur (MERCOSUR))」、「アンデス共同体((西)Comunidad Andina (CAN))」など、異なる経済的な共同体があります。
それぞれのプロセスが、それぞれの理論や背景に基づいて進んでいるものと考えられます。
ラテンアメリカにおける「輸入代替工業化(ISI)」
アルバレス(2011)によれば、近代のラテンアメリカの統合のプロセスは、①「輸入代替工業化モデル((西)Modelo Sustantiva por Importaciones (ISI)」の時期と、②ISIモデルを見捨てた時期 の2つの段階に分けることができます。
輸入代替工業化(ISI)モデルは、一次産品の輸入に低度・中度の関税をかけることでこれを促進し、逆に工業製品の輸入に対しては高い関税をかけることでこれを抑制するものです。このモデルは、「ラテンアメリカおよびカリブのための経済委員会((西)Comisión para América Latina y el Caribe (CEPAL))」(※ラテンアメリカおよびカリブ地域の経済発展などを促進するために1948年に設立された国連の組織)により提案されたものと考えられます。
そのCEPALの説は、以下の考え方に基づいておりました(アルバレス、 2011: 10)。
・国際的な経済の構造は工業国と非工業国を分け、固定し、この後者(非工業国)に一次産品や食料品の供給の役割を与えている。
・その役割を受け入れ続けるべきではない。なぜなら、工業製品に比し一次産品の輸出には付加価値が少なく、この構造は先進国にのみ利益を与えるものだからである。
50ー60年代のラテンアメリカの国々は、上記の仮説に基づき経済統合を進めてきたと考えられます。
「輸入代替工業化(ISI)」モデルからの転換
しかしながら、このISIモデルは、いくつかの国でのミリタリズムと相まって、80年代にはマクロ経済の不安定化をもたらしました。その結果、ISIモデルは見捨てられ、貿易の自由化が始まることになりました。
つまり、輸入と国内の需要に視点を置いていた国々が、輸出と海外の需要を重視するという、政策の転換を行いました。
NAFTAやMERCOSURが現れたのはこの時期に当たり、したがって、(ラテンアメリカ諸国のみが加盟国の)MERCOSURを結成し発展させる動機は、輸出の拡大と、市場拡大によるポジティブな効果への期待であったということができるでしょう。
また、MERCOSURのイニシアティブをとってきたアルゼンチンとブラジルは、高いインフレ率、大幅な為替変動、深刻な外貨不足、鈍化する経済成長、増加する対外債務という、不安定なマクロ経済に対処する必要がありました(Escudero, 1992; Manzetti, 1993-1994; and Hamaguchi, 1998)。したがって、アルゼンチンもブラジルも、市場の自由化による次の効果を期待していたと考えられます。
・安い輸入品が入ることによりモノの価格を下げること。
・より外貨を確保し、直接投資の増加により為替を安定化させること。
・2国間の輸出の増加により経済を刺激すること。
・政治的な効果として、民主主義の確立と国際社会へのアクセスを強化すること。
結論的には、MERCOSURの設立の主要アクターであるアルゼンチンとブラジルは、両国の当時の状況にとって、関税同盟の結成はメリットがあると確信していたと言えます。しかしながら、そのプロセスは政治によって大きく影響を受けていると言えます。これについては別の記事で扱えればと思います。
まとめ
近代のラテンアメリカの経済統合は、①ISIモデルを推進する時期と、②それを見捨て、市場開放によるメリットを得ようとする時期 に分けることができます。
市場開放を追求する時期に結成されたMERCOSURですが、この同盟の市場開放の水準も、高いレベルのものであったとは言えません。この市場開放の時期がどのように発展するのか、MERCOSURを例に、以後見ていければと思います。
参考文献
・Alvarez, Mariano (2011). Los 20 años del MERCOSUR: una integración a dos velocidades, Santiago, Naciones Unidas.
・Escudero, Alfredo (1992). “Mercosur: el nuevo modelo de integración”, Comercio Exterior, vol.41, No.11, : 1041-1048.
・Manzetti, Luigi (1993-1994). “The Political Economy of MERCOSUR”, Journal of Interamerican Studies and World Affairs, vol.35, No.4: 101-142.
・Hamaguchi, Nobuyuki (1998), “Internationalizacion and Economic Integration of Latin America”, Instituto de Economías en Desarrollo, Organización Japonesa para el fomento del comercio Exterior (IDE-JETRO), No.490: 1-81, 167-303.
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