2023年6月28日付TasteAtlas(テイストアトラスは、世界の味覚や食材、伝統料理、レストランの百科事典を自認するチーム。)の「世界の魚スープ・ベスト10」に2位にノミネートしたエクアドルのスープ「エンセボジャード(Encebollado)」。
世界で2番目に評価の高い魚スープに選出されたことで、現地主要紙がこの結果を報じたり、エンセボジャード盛り上げに尽力したコレア元大統領がツイッターでこの結果を引用しつつ祝福した他、ポットキャスト番組などでこの結果を喜ぶ人も出るなど現地は大盛り上がり。
一方、エクアドルでは普通に食べられている「エンセボジャード」ですが、国内外でグルメとして注目を浴び出したのはここ数年のことと思います。本記事では、この「エンセボジャード」がどのような料理なのか、また、一部政治化されている現状について、御紹介いたします。
エンセボジャードとは
エンセボジャード(Encebollado)は、エクアドル沿岸部発祥と言われる、魚(カツオやマグロ)、紫玉ねぎ、ユカ(キャッサバ)、シラントロ(パクチー)が入った、トマトなどの野菜で煮込まれたとろみのあるスープです。(※以下記載のとおり、バリエーションは豊富です。)
「スープ」と言いますが、マグロやユカ、トウモロコシなどがゴロゴロ入っていて、タンパク質、炭水化物、野菜がそれ単体で取れてしまい、それだけでかなり満足感が得られる料理です。
なお、スペイン語で「玉ねぎ」のことを「セボージャ(Cebolla)」といい、エンセボジャードの名前は「玉ねぎ和え」みたいなニュアンスがあります。それだけ玉ねぎ(通常紫玉ねぎ)が重要な役割を果たしている料理です。
スープはオレンジ色で、若干とろみがあることが、他の魚介スープとの違いとしても特徴的であると思います。
この料理は、筆者も3年強エクアドルに住んでいた経験から良くいただきましたが、あまりに一般的な料理であったため、残念ながら写真さえ撮っておりませんでした。。写真は、上記の写真(フリー素材から拝借したもの)が一般的なイメージに合致すると思いますし、例えばTasteAtlasのHPでは以下のとおり紹介されています。
起源は明確にはわからないようですが、エクアドル沿岸部発祥で、グアヤキルで食べられ始めた料理であるようです。
付け合わせのバナナチップスやポップコーン
ライムを搾ってさっぱりとさせたり、突出し又はセットで出されることの多い「カンチータ(canchita)」、「カンギル(Canguil)」や「チフレ(Chifre)」と一緒に食べることが一般的です。
「エンセボジャードに最も合うのはバナナチップスかポップコーンか?」と題した現地主要紙の記事があるように、付け合わせも重要な役割を果たします。なお、お店によっては上記のおつまみが複数一緒になってだされることもよくあります。
エクアドルにおけるラーメン的存在?
エンセボジャードは、スープという括りで語られる一方、前述のとおりそれ単体で栄養豊富な「完全食」でもあります。
現地では、エンセボジャードの魚や野菜の栄養素の作用により、アルコース摂取後、酔い過ぎや二日酔い(スペイン語でResaca(レサカ)、現地語でChuchaqui(チュチャキ)の対策にエンセボジャードを食べることが良いという説があります。一方、結構重い料理であり全然二日酔い対策として適さない、という説もあります。
なんとなく、塩分のある飲みやすいスープがベースで炭水化物もあり飲んだ後の体が欲するのと、野菜もしっかり入っていることと肉でなく魚ということで罪悪感も薄れるため、そうした二日酔い対策に良い説が出てきたのではと想像します。その意味では、飲んだ後に食べたくなるラーメンと若干似たような立ち位置なのではとも思います。
「エンセボジャード世界大会」を開催!!!
エクアドルでは、コレア元大統領(大統領任期:2007-2017年)の主導の下、2015年に第1回の「Campeonato Mundial del Encebollado(仮訳:エンセボジャード世界大会)」が開催、2017年に第2回大会が開催され、エクアドル国内各県のみならず、スペインやイタリア、米国からも参加がある国際的な大会となりました。
審査は大変厳格で、専門の研修を受けた審査員による厳正な選考、コレア元大統領や観光大臣をはじめとした国内の壮々たる面子の審査員による審査、ブライドテイスティング等を経て、その年の最優秀エンセボジャードが決まっていました。
第2回まで盛り上がりを見せつつ開催された本大会でしたが、コレア政権交代以降は開催されていないようで、2017年大会が最後のようです。つまり、コレア政権以降の政権は、同大会は実施する必要がないものとして打ち切ったということが言えます。
そうしたことから、先のTasteAtlasの評価のようなニュースが出るとコレア元大統領自身やコレア派の人たちが喜ぶ(直接・間接的に成果としてアピールする)という、若干政治化されているという面白い状況もあります。
政府が国民の税金を原資として実施する大掛かりな大会であったので、当然ながら賛否はあったわけですが、この大会により、国内外のエンセボジャードのグルメとしての株や認知度が国内外で高まったということは、冒頭述べたTasteAtlasの評価にも表れているように、事実なのではないかと思います。
筆者も、エクアドル在住中、エンセボジャードは頻繁に食べていたにも関わらず、日本人の訪問客や観光客にエンセボジャードを必ず食べるよう勧めたことは、今思えば大変残念ながら、ありませんでした。クイ(天竺鼠)や、エクアドル風セビーチェよりも前に、エンセボジャードを食べてもらうべきであったかもしれないと、自戒を込めて本記事を書いているところです。。。
多種多様なエンセボジャード
筆者のイメージする一般的なエンセボジャードは前述のとおりですが、他にもエビなどの魚以外の魚介類がメインで入ったものなどもあるようです。
以下のエクアドル観光省HPプレスリリースにおいて、多種多様なエンセボジャードがあることが紹介されています。(ただし、以下のページではエンセボジャードに不可欠と思われるカツオなどの魚について記載がなかったり、前述の一緒に食べられるおつまみの違いを述べるのみであったり、そこまで中身のある情報には思われませんでした・・しかしながら、一応公的ソースとして載せたいと思います。)
まとめ
本記事では、「世界の魚スープベスト2」にノミネートしたエクアドルの「エンセボジャード」を紹介しました。
政府肝入りの世界大会などの開催の効果もあって2020年代から国内外で再評価されている向きがあり、もしエクアドル国内でまたコレア元大統領派が復権すれば、同大会の再開をはじめ、また脚光を浴びる料理かもしれません。そういった意味でも、本記事が少しても参考になれば幸いです。
【その他参考文献】
・2015年7月1日付エクアドル観光省プレスリリース
https://www.turismo.gob.ec/el-encebollado-y-sus-variaciones-en-cada-region-de-ecuador/
・2015年7月10日付エクアドル観光省プレスリリース
https://www.turismo.gob.ec/el-encebollado-y-sus-variaciones-en-cada-region-de-ecuador/
・2016年4月15日付エル・コメルシオ紙
https://www.elcomercio.com/sabores/encebollado-menuecuatoriano-gastronomia-origen-platotipico.html
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