南米諸国の地域統合の画期的な枠組みとして、一時は大いに盛り上がったUNASUR(ウナスール)。
エクアドルの首都キトの赤道記念碑(Mitad del Mundo)を訪れたことのある方は、その事務局であるかっこいい建物も見たことがあるかもしれません。
しかしながら、多くの加盟国が脱退して、今では「オワコン」化してしまっているとも危惧されています。
本記事では、そんなUNASURの基本情報と現状について、できるだけわかりやすく紹介したいと思います。
この記事を読んでいただくと、以下のことを参考にしていただけると思います。
- UNASURとは何か、簡単なイメージ。
- 中南米のまとまり(地域統合)についてのイメージ作り。
- UNASURの2021年後半時点の状況。
それではお願いいたします。
UNASUR(ウナスール)とは
UNASUR(ウナスール)の概要に関しては、まずは日本の外務省のHPを拝見しましょう。外務省の情報は、UNASUR自身の公式情報を正確な日本語訳にしているものだと言えます。
「南米諸国連合(UNASUR:Union de Naciones Suramericanas)は,加盟国の主権及び独立を強化しつつ,社会経済的不平等の根絶,社会的包摂と市民参加の実現,民主主義の強化等を見据え,政治的対話,社会政策,教育,エネルギー,インフラ,金融環境等を優先課題として,南米諸国民の文化,社会,経済及び政治面における統合と団結の場を構築することを目的としています。」
(引用)外務省HP https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/latinamerica/kikan/unasur/index.html
大胆に噛み砕くと、「南米の国で、いい感じに色んな分野で協力してまとまっていこう!」というグループと言えます。
設立経緯他の情報について、以下ポイントを抽出してみます。より正確な情報を得たい方は引用元の外務省のページをご参照ください。
- 設立経緯
2008年5月に首脳たちが集まった会合(於ブラジリア)で、正式に設立(「設立しまっせ」の条約を首脳たちが採択。)。
2011年から始動(その「設立しまっせ」の条約が実際に効力を発揮。)。 - 加盟国(メンバー)
12か国(アルゼンチン,ボリビア,ブラジル,チリ,コロンビア,エクアドル,ガイアナ,パラグアイ,ペルー,スリナム,ウルグアイ,ベネズエラ(議長国順))
(※これは、仏領ギニア(南米に土地はあるけどフランス)を除き、南米全部が入っていることを意味します。) - 設立の目的
前述の、「南米の国で、いい感じに色々な分野で協力してまとまっていこう!」というもの。 - 機構(内部のルール的なもの)
・首脳、外務大臣、その他のレベルで、年1回以上定期的に顔を突き合わせてミーティングをします。
・議長を務める国(議長国)は基本ローテーションします。
・事務局はエクアドルの首都キトに置いてます。事務局長は現在未着任。
・議会はボリビアの都市コチャバンバに置いてます。
・基本的に物事はコンセンサスで決めます(全員がOKしたら決まる)
イメージとしては、南米のEUを目指すまとまり(連合)とも言われます。(盛り上がっていた時期は、「ゆくゆくは中米も巻き込むぜ」という勢いだった模様。)
UNASURの事務局(オフィス)は、キトに観光に来たら必ず行くであろう赤道碑のすぐそばにありますので、観光で行かれた方はみている方も多いのではと思います。
UNASURの現状
大望を抱き設立されたUNASURでしたが、2018年に多く加盟国が脱退を宣言し、「瀕死」状態となってしまいます。以下Wikipediaからの引用です。
「2017年7月、エクアドルのレニン・モレノ大統領は同年1月から事務局長が選出されてないことや予算の問題からエクアドルにある事務局の建物を教育施設として再利用するとした。翌2018年4月、アルゼンチン、ブラジル、チリ、コロンビア、パラグアイ、ペルーは事務局の運営などをめぐり南米諸国連合への参加を中止した。同年8月にコロンビアは「ベネズエラのニコラス・マドゥロ独裁政権の最大の共犯者」と非難して南米諸国連合からの脱退を発表した[7]。これらの動きに対して議長国ボリビアのエボ・モラレス大統領は「南米の分裂をアメリカは画策している」と反発して同年9月にボリビアで落成した南米議会の本部で南米諸国連合の基本的な運営を行うとしている。2019年3月にはエクアドルも脱退し、チリのセバスティアン・ピニェラ大統領の主導で南米諸国連合に対抗する新たな地域連合としてアルゼンチン、ブラジル、チリ、コロンビア、エクアドル、ガイアナ、パラグアイ、ペルーによってラテンアメリカの進歩と発展のためのフォーラム(Prosur)がサンティアゴで結成された。」
Wikipedia
要所をまとめると、
・いわゆる西欧的な自由・民主主義の価値観に近い主要加盟国と、ベネズエラのマドゥロ政権をはじめとしたそうでない価値観の国が相いれず、前者が脱退してしまった。
政治傾向は左派的ではあるものの前任のコレア元大統領とは決別したエクアドル(事務局を擁する)のモレノ大統領(当時)も、その後脱退。自国にあるUNASUR事務局の費用対効果を問題視し、大学などの教育機関にした方が良いとも考える。
あげく、脱退した国で、「Prosur(プロスール)」という似たような、UNASURに対抗する組織を作ってしまった。
というのが現状と言えます。
UNASURの機能に問題意識を持った諸国が、そのまま維持したいボリビアやベネズエラなどと分裂し、事務局のある国(エクアドル)までも出ていった「閉店状態」です。現地メディアでは「瀕死」、「死亡」とも表現も使われています。
閉店状態となってしまった原因は?
この種の内部分裂の原因は複数あって個別の断定はできないと思いますが、以下が要因の一部と考えらます。もちろんベネズエラの人権問題も大きな要因の一つだと思います。
そもそもの出発点がイデオロギー色が強いグループであった
南米全体を巻き込むこのUNASURを発足できたことの一つに、当時の首脳たちが皆近しい政治的な傾向をもっていたということがあると考えます。
(2008年のUNASUR発足時の政治的な色が近しいと言われる各国の大統領)
ベネズエラ ウゴ・チャベス
エクアドル ラファエル・コレア
ブラジル ルラ・ダ・シルバ
アルゼンチン クリスティナ・フェルナンデス
ボリビア エボ・モラレス
チリ ミシェル・バチェレ
パラグアイ フェルナンド・ルゴ
チャベス大統領(当時)は、米国のブッシュ大統領(当時)のことを「悪魔」と呼び、コレア大統領(当時)は「それは悪魔に失礼だ」と呼ぶ意気投合ぶりを披露していたことは有名です。
それでありつつ、そういった政治の色がない国も当初は取り込むことができていたことも事実なようです。
ただ、出発点にそういったイデオロギー(政治的な色)が存在し、その後多くの加盟国で大統領が変わり政治方針が一転した後、「折り合わない」ということが起きてしまうこともあると言えるでしょう
コンセンサス方式
UNASURは、そのルール(法)を変えたり決定をするとき、基本的にコンセンサス方式(全員が了解しないとだめ)とするとの決まりがあります。
例えば大多数の人がルールを変えたいとき、一国でもそれに反対すれば、そのルールが変わらない、ということが起こり得ますので、グループの持続可能性の観点からはなかなか厳しいものがあります。
多数決方式なら多数派の意見が通って、グループとしては続いていきそうですが、多数派が「もういやや!抜ける!」ってなってしまったら、グループとして意味をなさなくなってしまいます(今回起きてしまったのはそういったことといえます。)。
今後はどうなる?
前述のとおり、現地メディアの評論ではUNASURの状態が「死亡」とか「終わり」などの言葉でも表現されているとおり、このまま地域統合枠組みとして意味をなさなくなっていく(オワコン化していく)ことも一つの道だとは言えます。
一方で、コレア元大統領がインタビューで、現在のUNASURは確かに瀕死状態であるが、また復活させることができると述べていたように、今後またコレア元大統領達のような政治色の人たちが大統領になる時代がくれば、また復活、みたいなこともあるかもしれません。
最近の中南米ではまた左派系大統領が多く誕生しているので、今後の展開に注目したいところです。
まとめ
UNASURは一時はラテンメリカのEUを目指す盛り上がりで、南米みんながまとまる一定の成果もあったものの、今は「閉店」状態で、当時メンバーであった国がそれに対抗する別グループ(Prosur)を作ってしまった、というのが現状です。
引き続き、UNASURやProsurの動向や、UNASURの事務局が何に生まれ変わったかなど、フォローしたいと思います。
(※本記事は運営者個人の私見に基づくものです。)
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