本記事では国連予算・分担率について、できるだけわかりやすく、具体的に解説いたします。
本記事をお読みいただくと、以下の点でお役に立てていただけるかと思います。
・国連予算の概要・イメージを掴む
・国連通常予算、国連PKO予算の大別・違いがわかる
・日本の国連分担金について理解する
なお、視覚的な負担を軽減するため所々画像を挿入しますが、それらの画像は国連のものではなく、フリー素材です(国連の公式ギャラリーであるUN Photoの利用は個人ではハードルが高いため。)。
それではお願いします。
(※本記事は2021年12月時点で作成されたものです。)
国連予算とは
通常予算 (Programme Budget又はRegular Budget)
翌年の1年間の国連「通常予算」は、前年の12月に国連総会で承認され、決定します。
例えば、2021年1-12月の通常予算約32億米ドルは、2020年12月に、第75回総会にて承認されました。2022年1-12月の通常予算は、この記事を投稿する2021年12月にまさに最終交渉中といえます。
国連加盟国は、この予算の総額を分担率に応じて負担します。(※分担率については後述)
32億ドルというと、3600億円くらいなので、日本の一つの省庁(例えば外務省予算)が大体7000億円であることを考えると、意外に少ないかとも思うのではと思います。
しかしながら、国連加盟国が分担率に応じて負担する予算には、実はこの国連「通常予算」とは別に、Peace Keeping Operation(平和維持活動)にかかるお金である国連「PKO予算」があります。
PKO予算 (Peacekeeping operations budgets)
実はこの国連「PKO予算」の方が、国連「通常予算」よりも額が大きいのです。
各国が分担率に応じて負担する「国連予算」を議論する際は、「国連通常予算」の話をしているのか、「国連通常予算」及び「国連PKO予算」を合わせた予算の話をしているのか、など、認識を合わせることが大事になります。
なお、国連予算には、実はこれ以外にも各国が各国の優先課題に基づき拠出する「任意拠出金」等もあるのですが、今回はわかりやすい解説を目指して、本記事ではその部分は割愛したいと思います。
翌年度の1年間の「PKO予算」は、前年度末の6月に国連総会で承認され、決定します。例えば、2021年7月-2022年6月のPKO予算約63.7億米ドルは、2021年6月に、第75回総会にて承認されました。
PKOは実際のオペレーションにかかる経費であり、近年はおおむね通常予算の倍程度かかっているといえます。
国連予算はどこで決まるのか?
国連行財政事項を担当する「第5委員会」
国連予算成立の流れは、通常予算・PKO予算ともに、国連の事務局が国連の予算事項を担当する「第5委員会」に提出し、同委員会の中で予算の審議・交渉が行われます。
第5委員会は、予算に関する決議案(例えば〇〇額を減額した〇〇ドルを承認、など)を策定し、その後総会本会議にて同決議案が採択され、次の年(年度)の予算が成立します。
また、その過程で、国連総会の下部組織である国連行財政問題諮問委員会(The Advisory Committee on Administrative and Budgetary Questions)(ACABQ(エーシーエービーキュー)と略します。)が行うアドバイスが重要な役割を果たしています。
・国連第5委員会の公式HP(各年の国連総会での決定や決議、人事などが確認可能です。)
・ACABQの公式HP(ACABQの出しているレポート・構成委員(現在16人)などが確認できます。ちなみに日本も長らく委員を務めています。)
予算審議のプロセスは?
前項のとおり、通常予算とPKO予算とでは年度の期間が異なるので、審議プロセスもその分異なってきますが、国連事務局が予算案を作成し、第5委員会でその予算案を通すか通さないか、修正するかなどを審議し、最終的に総会本会議で承認するプロセスは同じです。
ちなみに「国連事務局」は「事務総長」をヘッドとして、国連の仕事を実際に行う機関で、「国連総会」の下にある「委員会」は、各国で構成された委員がやるべきか否かなどを議論したり決めたりする組織です。
わかりやすく例えると、「国連事務局」は「政府」、「国連事務総長」は行政の長である「大統領」なり「総理大臣」、「国連総会」は「国会」、「委員会」も国会の下にある各委員会とイメージしやすいかと思います。(政府が作った予算案を国会の予算委員会で審議、本会議で可決。)
なお、国会を構成するのは選挙で選ばれた国会議員ですが、国連総会を構成するのは全ての国連加盟国であり、それぞれが一票をもっている(一国一票)形です。
国連分担金の分担率はどのようにきまるのか?
日本は世界で3番目に高い分担金を負担(2019年以降)
2019年に、日本の国連分担率が2位から3位に落ち、中国が米国に次ぐ2位になりました。この頃は、日本の国際的な影響力低下への懸念や国連との使い方を改めて議論する報道なども多くありました。
分担率が高いということは、国として多くの金額を負担するということですが、それだけ国連に対して「モノが言える」という面もあります。
ではこの分担率はどのように決めているのでしょうか?
結論的には、「国連分担金委員会 (Committee on Contributions) 」というところで、その国の国民総所得(GNI)を元にした計算を用いて決めています。GNIとは、国内の生産活動で生み出された付加価値の合計であるGDPに対し、海外での儲けも含め国民が生み出した所得を測る指標です。
国連分担金委員会
国連分担金委員会は、各国の国連(予算)の分担金などに関わることを審議し、国連総会に勧告(アドバイス)する委員会で、これも国連の一つの委員会として機能しています。
構成メンバーは各国を代表する18人で、毎期日本人も委員を務めています。
分担金が支払えない国があったりした際の扱いを議論したりもしています。
・国連分担金委員会の公式HP
通常予算とPKO予算で異なる分担率
実は、通常予算とPKO予算の分担率は、ほとんど同じといえば同じなのですが、若干異なります。
これは、安全保障理事会のメンバー国(米国、中国、ロシア、フランス、イギリス)が、国際の平和と安定により大きな責任を持つということで、他の国より少し多くの分担率を負担していることによります。
日本の国連分担率は?
最新の日本の国連分担率は、通常予算、PKO予算ともに、世界第3位の8.564%です。
金額は
・国連通常予算 約2.5億ドル (2021年)
・国連PKO予算 約5.6億ドル(2020年)
(外務省HP引用)
日本の分担率を見ても、国連PKO予算の方が支出額が大きいことがわかります。
年度は異なりますが、仮にこれら二つの日本の国連分担金を合わせたとすると、おおむね年間8.1億ドル(約915億円)の負担です。仮にこれを日本の総人口を1億2600万人として割った場合、一人当たり年間726円を負担しているようなイメージでしょうか。
国連予算の内訳は?
上記で説明したとおり、各国が分担率に応じて負担する国連予算は大きく「通常予算」(Programme Budget又はRegular Budget)と「PKO予算」(Peacekeeping operations budgets)に大別することができます。
それでは、「通常予算」と「PKO予算」の内訳はどのように確認ができるのでしょうか。
これは、例えば予算を担当する国連第5委員会のHP上で、関連の決議を見ていけば詳細に見ることができるのですが、例えば直近の国連総会である第75回、第74回の決議を開こうとすると、2021年12月現在、なんと全てエラー表示になってしまいます。。。
(第75回国連総会における第5委員会の決議・決定一覧)
12月は予算交渉の真っ只中なので、何かしらシステム上の調整がされての一時的なエラーなのかもしれません。
例えば2021年通常予算に関して、以下のHP上で、各分野の予算計画の分野一覧を見ることができます。実際にどのように支出されたか、についても、国連事務局や先述のACABQのレポートなどを見ると確認ができます。
まとめ
国連予算・国連分担金に関する基本的な情報をご紹介しました。
もっと個別に掘り下げられる議題の多い、興味深い分野なので、関心のある方は是非第5委員会のHPなどに潜って行っていただくと知識を深められると思います。
この記事が少しでも参考になれば幸いです。
(※本記事は、運営者個人の私見に基づき作成されたもので、所属する組織とは無関係です。)
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