メルコスールという「関税同盟」の結成が掲げられてから30年以上が経ちましたが、その野心的な目標が達成できたとは言えません。
設立条約である「アスンシオン条約」署名後のプロセスを見てみると、自由貿易と対外共通関税(Arancel Externo Común (AEC))の実現のために従うべき「手続き」と「期限」に関する政治的な合意が見られる一方、その多くは達成されず、定められた期限が延期される、という傾向が見受けられます。
本記事では、メルコスールの1991年以降の政治的合意とその達成状況の外観をみていきたいと思います。
当初の実現期限 「1994年末」まで
上記の傾向は、具体的には、「アスンシオン条約」の一年後、1992年に開催されたラス・レニャス会議(Conferencia en Las Leñas)から始まります。同会議において合意された“Decisión 01/92”(1992年最初の「決定」)は、「単一市場(Mercado Común)」の結成のためのクロノロジーを1994年12月31日までと定めました。
つまり、「加盟国間の財・サービス。生産要素の自由な移動、対外共通関税の制定、第三国に対する共通の通商政策の実施、マクロ経済政策およびセクター別の政策における協調、加盟国間の関連分野における司法制度の調和、様々な制度面の整備」(”Decisión 01/92″より)の実現であり、それは同年(1992年)に開催されたモンテビデオにおける首脳会談においても確認されました。
また、翌1993年に、関税・単一市場移行同盟(Unión Aduanera y Tránsito del Mercado Común)の結成が宣言され(Desición CMC* 13/93)、その後も加盟国はAEC制定や域内自由貿易のために予見される諸問題に取り組んできました。
*Consejo del Mercado Común(CMC):単一市場審議会。メルコスールの運営に中心的な役割を果たす組織。
期限の延期・再延期 「2000年まで」→「2006年まで」
しかしながら、域内自由貿易の例外やAECの現状を考えると、前述の1994年末までの期限はあまりに野心的であったと言わざるを得ません。
実際、1995年にCMCは、「2000年までのメルコスール・アクションプラン (Programa de acción del MERCOSUR hasta el año 2000)」を発表し、2000年までに関税同盟の結成を完了するための行動計画を示しました。つまり、1994年末まで(1995年まで)の単一市場・関税同盟の結成期限は達成されず、次の目標として2000年までの実現と、そのための行動計画が定められました。
しかしながら、その新たな期限中にも、目標は実現しませんでした。
前述の「2000年までのアクションプラン」の精神は、「2004-2006 メルコスール活動計画(Programa de trabajo del MEROSUR 2004-2006)」(Desición 26/03 del CMC)に引き継がれ、新たな目標となる期限は2006年とされました。
しかしながら、その新たな期限までにも関税撤廃とAEC制定のための大きな進展があったとは言えませんでした。
加盟国の増加
前述の2006年から、ベネズエラとボリビアの加入のための動きも始まり、目標に向けた道筋はさらに複雑になります。
加盟国が増えると、その加入のための調整に時間とエネルギーが取られ、また加盟国のコンセンサスのハードルが高くなります。また、ベネズエラもボリビアも政治的な色に特徴があり、実際、ベネズエラに関しては、その民主主義体制の断絶(ruptura)があったとして参加資格が停止されるなど、それぞれ西欧諸国的な資本主義・自由貿易を志向して経済的な統合を進めようと邁進する国ではないと言えます。
期限設定のやり方にみる政治的文化の違い
日本の場合、「実現可能な目標を設定する」、場合によっては「設定した目標を実現できないことを避ける」傾向があると思います。
一方、南米諸国の政治は、上記のメルコスールの例をみても、実現可能性よりも、そのときの「機運」や「(政治的)野心(≒(政治的)インパクト)」を重視、あるいはそれに影響された目標を掲げることが多いと言えます。
日本的なやり方も、場合によっては真面目すぎたり、その時々はインパクトの(少なくとも国際的には)弱い印象を与えたりすることもあると思いますが、実現可能性が精査された目標やメッセージには信頼や重みがありますので、政治的な「想い」で終わってしまうものよりも意義が大きいと言えるでしょう。
コミットしても実現しない、ということが重なれば、「オオカミ少年」のように、誰もそのことを信じなくなってしまう恐れがあります。
まとめ
メルコスールは、2006年のその後も、結成20年、30年がたった今も、単一市場の結成、さらには完全な関税同盟の結成さえも、実現したとは言えません。
一方で、何の進展や成果がなかったかというと、決してそうではありません。
本ホームページでは、現在までにメルコスールが統合体(グループ)として得た成果を、「制度上の成果」(公式な合意や条約など。形式上の成果。)と、「実質的な成果」(貿易量の推移など)に分けて見て行きたいと思います。
次回の記事にて、まずは「制度上の成果」を、「自由貿易」(域内関税撤廃)、「対外共通関税(AEC)」の順で、見て行きたいと思います。
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